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そう思いたかった。
しかし、それは綾乃が一人で資料室にいる時に崩されることとなるのだ。
「よぉ、遅刻魔」
資料室に入ってくるなり軽口を飛ばす葵。
一体なぜだろうか……葵に対してだけはいつも通りに振る舞えない。それどころか、声を掛けられているというのにそれに反応して目を合わせることすらできないのだ。
まるで無心状態で棚の中のファイルを出し入れする綾乃に、背後に立つ葵は懲りずにまた話しかけてくる。
「……なんだ、朝から機嫌でも悪いの? あ、もしかして生理前?」
そんな無神経な発言にすら怒る気にもなれない。
「……何しにきたの?」
抑揚のないトーンで返す綾乃の後ろで、葵はつまらなさそうに腕を組む。
「べっつにー? ちょうどお前がここに入ってくの見かけたから、社会人らしく朝のご挨拶でもしようかなぁと思っただけだし!」
「……あっそう」
まるでそっけない綾乃の態度を不審に思った葵は、その顔を覗き込んだ。
「……なに? お前、どうせまた男を試してフラれたんだろー?」
作業するその手がピタッと止まったのを見ると、ますます葵は調子づいてからかい始めた。
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