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——また別の日。
格式高い中華レストランで食事を終えた綾乃は、今日もまた帰路をともに歩くメッシーくんに歩幅を合わせて歩いていた。
……ただ無言で、手で口元を固く覆い隠しながら。
「……綾乃ちゃん、どうしたの? さっきから口数がずいぶん減ってるけど……もしかしてあの店の料理、口に合わなかった?」
「………。」
「……綾乃ちゃん?」
「ダメ! 近寄らないでっ!!」
目をまん丸にして立ち尽くすメッシーくんからサッと身を引き、口を押さえたまま背中を向けた。
そしてその理由を手で覆った口から吐露し始める。
「ここの餃子があまりにも美味しすぎて、一人で20個も平らげちゃったんだもん……私今、息が猛烈にニンニク臭すぎてっ、とても飯塚くんの顔を見ながら話すことなんてできない……!! これから先もずっと、私は飯塚くんに食事をご馳走になるたびにこうして飯塚くんの目を見つめて話すことさえ叶わなくなるのね……。そんなのって、あんまりだわぁああ……っ!!」
「………。」
しばしの沈黙の後、目が点になっていたメッシーくんが引き攣った笑顔で後ろから綾乃の肩に手を置いた。
「だ、大丈夫だよ綾乃ちゃん……僕、全然そんなの気にしないから……。それに、ニンニクが気になるなら次は餃子以外のものを食べれば——」
「ダメよ!!」
「え」
「中華屋さんに来て大好物の餃子を食べられないなんて、イチゴの乗ってないショートケーキを食べるのと同じなんだからぁぁぁぁ!!」
「………。」
ポカンと呆気に取られていたメッシーくんだったが、すぐに気を取り直してから今度はしどろもどろとなり始めた。
「じゃ、じゃあ次からは……ええっと、何にしようかな……。そう、洋食でも和食でも中華でもないお店にしよう!! ねっ?!」
「……うん!」
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