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それから数日と経たないうちに、2回目の試合開始のゴングが鳴った。
今回のターゲットは「メッシーくん」。
「メッシーくん」とは、その名の通り女性にメシを奢ることを自己パラメーターのアップとしている男性のことである。
そんなメッシーくんに勧められるまま、グルメ雑誌に掲載されたこともある有名な高級レストランで食事を終えた綾乃。
おそらく目玉が飛び出そうな金額の支払いを済ませたメッシーくんとともに店を出た。
「あーすっごく美味しかった〜! ご馳走様でした、飯塚くん!」
「お気に召してくれたみたいで何よりだよ、綾乃ちゃん」
「うん、確かに美味しかったんだけど……次は洋食以外がいいかなぁ」
「……えっ、どうして?」
立ち止まったメッシーくんの隣で、綾乃は顎に手を添えてから控えめに俯いてみせる。
「だって……洋食って美味しいぶん、炭水化物も多くて高カロリーな料理がほとんどでしょ? つい食べ過ぎてもし太っちゃったら飯塚くんに嫌われちゃうんじゃないかって私、怖くって……!」
「綾乃ちゃん……っ!」
そんな見え透いた演技にもまるで疑いの念を向けることのないメッシーくんが、瞳の奥に炎を宿しながら綾乃の両手を掬い上げ、ギュッと握り締めて宣言する。
「大丈夫、たとえ綾乃ちゃんがどんなに太っちゃったとしても嫌いになったりなんてしないよ! それにね、僕は綾乃ちゃんが美味しそうに食べているところを見ているだけで幸せなんだ。だから、そのためなら僕はなんだってするよ!!」
それを聞いた綾乃は密かにニヤリと片方の口角を上げた。
「(ほほーう……。それじゃ、その幸せのためにどこまで耐えられるのか……お手並み拝見といこうじゃないの)」
そんな不穏な企みなど知る由もなく、メッシーくんは嬉しそうに提案し始める。
「でも、綾乃ちゃんがそんなに気になるなら次は低カロリーな和食屋さんにしよっか!」
「本当っ? ありがとう、飯塚くんっ!」
——別の日。
代々続く老舗の日本料理店で食事を終えた綾乃は、今日もメッシーくんと共に帰路に着いた。
「今日もご馳走様です、飯塚くん!」
「ここの店、評判通りの味だったね! 綾乃ちゃんもそう思わない?」
その質問に、綾乃は眉をひそめた。
「うん、確かに美味しかったんだけど……次は和食以外がいいかなぁ」
「……えっ? ど、どうして?」
「私ね、メッシーくんに申し訳なくてどうしても言えなかったんだけど……軽度の食物アレルギーがたくさんあるの」
「ええっ?!」
「そばも駄目だし、鰹と昆布も駄目で……。今日みたいに摂取すると、夜中に体じゅうに湿疹が出て痒くて眠れなくなっちゃうの……っ」
「そ、そんなっ……鰹節と昆布の出汁って和食ならかなり口にする可能性が高いよね?! 大丈夫なの?!」
「うん、軽度だから軽症で済むと思うんだけど……多分、今夜は痒くて眠れなくなっちゃいそう……」
「ごめんね、そんなことも知らずに軽々しくこんな店に連れてきちゃって!」
「ううん、いいの……私、こうしてメッシーくんと一緒に美味しいご飯が食べられるだけですごく幸せだからっ!」
「あ、綾乃ちゃん……!! なんって君は健気な女性なんだっ……! いいんだよ、綾乃ちゃんは綾乃ちゃんが何も気にせず食べられる物だけ食べてくれれば! よし、今度からはそばも鰹も昆布も入ってない中華屋さんにしようっ!!」
「……うん!!」
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