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「加藤君は?」
「え?」
「なんでこの仕事を?」
「ああ。俺はまぁ、勉強とかしたい事もなかったんで、高卒で入れる近場のところを探したって感じっす。ぶっちゃけ大学とかあんま意味ないみたいな事も言われているじゃないですか。それならとっとと働いちまった方がいいかなって。勿論面接じゃ、そんな事言いませんでしたけど」
「それはそうだ」と高柳は笑ってみせる。
「まぁでも、流石に何十年も外で立って棒振ってる人生なんて嫌なんで、将来的にはもっとちゃんとした仕事をやるつもりですけどね。この仕事はそれを見つけるまでの繋ぎというか。あっ、これ他の社員の人達には言わないで下さいよ」
「分かってるって」
事務所へ戻りヘルメットや誘導灯を返した高柳は、駐車場に停めてあった軽自動車に乗り込み帰宅した。
幼い頃から住んでいる団地は、築五十年を越えている。改修などはされていないため外壁は酷く汚れている。
部屋の間取りは2LDK。十年前に他界した父親も共に暮らしていた家であるため、二人で住むにはやや広い。
「ただいま」
家に上がるとリビングからテレビの音が聞こえてきた。
珠暖簾を潜り、廊下の先のリビングへ向かうと、机に突っ伏した母の小さな背中がある。
「母さん?」
返事がない事に不安を覚え、高柳は母の順子の元へ近付いた。
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