第1章 ベトナム帰還兵 死闘編(2)

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 スカレッタファミリーの正式な組員になったヴィトとジョニーは、以前にも増して仕事に精を出すようになった。  ある夜のこと、ギャンブルのポーカーで勝ちまくり、二人は上機嫌だった。 「兄貴、ここ最近、ツイてますねぇ」  ジョニーは鼻歌まじりで浮かれていた。  すると、路地の奥から男の怒鳴り声が聞こえてきた。 「こいっ! こんのガキゃ」  ヴィトは路地に入っていく。 「あ! 兄貴! 待ってくださいよ」ジョニーも後ろから追っていく。  奥には一人の少年が、数人の男達に囲まれて蹴られていた。 「この野郎! ポーカーで見え見えのイカサマしやがって!」 「畜生! てめえらだってズルしてるくせに、俺がズルしたら殴る蹴るかよ、覚えとけ!」  少年はくってかかった。 「うるせぇ!」さらに蹴りを入れる。 「おい、それくらいにしろ」ヴィトが止めに入る。 「ヴィトさん、止めないでください。このガキ、ここで何回もイカサマしてるんですよ。もっとヤキ入れないと示しがつきません」  憤懣(ふんまん)やるかたない様子だ。 「いくらだ?」 「ええっ!?」 「…だから、そのガキの儲けた金はいくらだ?」  ヴィトに唐突に聞かれて、男は一瞬ためらいながらも答えた。 「200ドルですが…」  ヴィトは財布から500ドル札を出し、男に渡す。 「だったら、これをもってけ」 「ヴィトさん、それは困りますよ……」  困惑する男の様子を見て、ヴィトは 「200ドルは返して、300ドルは貰っておけ。それでいいだろ」  この言葉に、男は少年を見て、ヴィトを見る。 「わかりました。今回はヴィトさんの義理に免じて見逃します」    そう言うと、引き上げていった。 「畜生! 誰も助けてくれって頼んでねぇよ!」  少年はヴィトをにらんで怒鳴ってきた。  すぐさまジョニーがくってかかる。 「おいっ! ガキ!」  詰め寄ろうとするのを、ヴィトが片手で抑え、少年に声をかけた。 「いいじゃねえか…おい、今夜寝るところ無いんだろ?」  少年の薄汚れたシャツと、黒ズボン姿を見る。 「ついてこい」  ヴィトは少年を部屋に連れていき、ジョニーと一緒に夕食を作る。  生ハム入りのトマトソースパスタ、ステーキ、パン、ワインは白と赤。  ステーキの焼き加減は少年にはミディアムレアで、大人はレアで。 「自己紹介がまだだったな。俺はヴィト・サリバン」 「俺はジョニー・ラッツォ」 「俺はジミー、ジミー・バートンと言います」  温かい食事をとるうちに、ジミーは少しずつ話し出した。  年は17歳、親から厄介者あつかいされて家出した。  もう家には帰らない、親とは絶縁だという意志は固い。  賭場でイカサマをして食いつないできた、と。  ヴィトは自分やジョニーと同じ、職にあぶれ居場所の無い少年なんだなと思った。 「どうだ、お前さえ良ければ、俺達のいる組にくるか? お前自身で決めろ」  ジミーは一瞬驚いたが、ぐっと顔を引き締め 「俺は、どこにも行くあての無いガキです……どうか…よろしくお願いします」と深々と頭を下げた。  すぐさまジョニーが、ジミーの肩をポンポンと叩く。 「そうかしこまるなよ。何かあったら、俺がいろいろ教えてやるからよ。心配すんな」 「おい、ジョニー、お前は俺に拾われたんだろ」  ヴィトに言われて、ジョニーがこりゃいけねぇと頭をさする。  三人は笑いあった。  ジミーが初めて年相応の笑顔を見せた。  翌朝、ヴィトはジミーを連れて、トニーの事務所を訪れた。  ジミーと出会った経緯、家族、ヴィトが兄貴分になること。 「なんか、初めてお前とジョニーに出会った頃を思い出したよ」  トニーは笑いながら、 「お前達に弟分が出来たんなら、大事にしろよ」  そう言って組に入ることを認めてくれた。  そこへ、スカレッタファミリーの幹部が一人入ってきた。  賭場を仕切っている、フランク・サンダ。 「やぁ、トニー。元気にしてるか」  ほがらかに挨拶し握手する。  ヴィト達はすぐさま頭を深々と下げて、わびをいれる。 「おやっさん、この度は勝手にケチつけるようなマネをして、すいませんでした」 「ハハハハ! 気にするな。俺はお前達の行動に感動したんだ。見ず知らずのそいつを助けるために、よくやったな」  フランクは笑いながら、言葉を続ける。 「まぁ、恩を感じてるなら、また俺の仕事の手伝いを頼むよ」  そう言うと、部屋を出て行った。  トニーは三人を見ると、軽くうなづき声をかけた。 「まぁ、頑張れ」  その夜、 「おい、早く着ろよ」  ジョニーがジミーを急かす。  言われたジミーは、あまり乗り気じゃない様子だ。  手に持っているのは新品のスーツジャケット、色は青。  着たくなさそうなのは、色が青だからか……  しかし、買ってくれたジョニーに着ろと言われたからには、仕方ない…しぶしぶ着ることにした。    三人はディスコで酒を飲んでいた。  ジミーの歓迎会だ。 「まぁ、トニーの親父の元でしっかり働けば、男になれるぜ」  ジョニーはいつもよりご機嫌だ。  ふと、ヴィトは踊っている一人の女性に惹かれた。  OL風の女友達と踊っていた彼女は、踊りをやめてバーのカウンターでカクテルを飲んでいる。  そこに、三人のチンピラがやってきて、彼女に声をかけた。 「ねぇ、彼女、ひとり? もし良かったら、俺達と一緒にあっちで飲まない?」 「お仕事何してんの? ねぇ、電話番号教えてよ」 「いい店案内するよ、一緒に行こうよ」  あからさまなナンパに、彼女は困っている。  思わずヴィトは止めようと立ち上がった。  しかし、彼女の連れの男がやって来て、チンピラに割って入った。 「彼女は俺の会社の同僚だ。すまないが、あっちに行ってくれ、う!」  腹にパンチを当てられ倒れ込む。 「あれ? 彼氏弱ぇぇ」 「安心しな、お前の分も俺達がしっぽりやるからよ」  彼女は嫌がっているが、チンピラ達は聞こうとはしない。  ヴィトが静かに近寄る。 「何? おっさん、彼女の連れ?」 「順番守ってよ。俺らが先よ」  へらへら笑う奴らを、まず一人フックで殴り飛ばし、もう一人ストレートで殴りつける。 「このやろっ!」  襲いかかってきたのをかわし、ボディブローを当てる。踊ってる客に倒れ込んで、乱闘になる。  ジョニーとジミーはヴィトを助けようと、急いで乱闘に入った。  ヴィトは彼女を守りながら店を出ると、用心のために車で家の近くまで送ることにした。 「自己紹介が遅れたな。俺はヴィト、ヴィト・サリバンといいます」 「さっきは助けてくださってありがとう。私はアイリス、アイリス・ローズといいます」  ヴィトは彼女の顔を見て、軽くうなづきながら 「…やっぱりなぁ」と、つぶやく。  アイリスが気になって聞くと 「アイリスにローズって、花の妖精か? 悪い虫には気をつけなくちゃな」  真面目な顔でウンウンとうなずく。  もちろんジョークだ。  アイリスは優しく笑った。  その後、彼女の住むマンションの近くで降ろしてやる。 「今夜はありがとう。もし良ければ、また素敵な話を」  そう言って、アイリスは名刺を渡した。  ジョニーとジミーはヴィトに置いてけぼりにされて、噴水前で座っていた。 「ジョニーさん、兄貴どこ行っちまったんですかねぇ」 「決まってんだろ。送っていったんだよ」 「送っていった?」  よくわかってないジミー、全てわかってる風なジョニー。 「さっき助けてたOL、彼女を家に送っていったんだ」 「そうですか…それって、兄貴の彼女になるかも…」 「そうだ」 「それって、俺達に姐さんができるかも」 「だから! 俺達で応援しようぜ!」  二人が盛り上がっているところへ、ヴィトの車が帰ってきた。 「兄貴!」喜んで走って行った。  それから、ヴィトはヤクザの仕事をしながら、アイリスと交際を続けていた。  一度、銀行員のアイリスに 「あなた、どんな仕事をしているの?」と聞かれ 「車の通信販売の仕事」と答えた。  納得してない感じの彼女に、いつか折を見て本当のことを話そうと決意した。    
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