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高輪さんは、そんな私を見てうれしそうに笑い、また小声で言う。
「男としてちゃんと意識されていてよかったよ」
「だ、だから。そういうのは無しの……」
「契約じゃなくて、偽装って言うべきだったね」
私の言葉を遮って、彼の笑顔と口調が意地悪なものに変わった。私は固まって、彼の言葉が頭の中で繰り返される。
「……ぎそう」
「俺は受け入れないけどね。じゃあ、また。連絡する」
彼の手が伸びてきて私の頬を撫で、指が耳朶に触れる。約束の証のように、きゅっと耳朶を摘まんでから彼は帰って行った。
「何度見てもかっこいいね……ドキドキしちゃった」
ぎゅっとごま塩を握りしめた私の後ろから、かずちゃんと土井さんが声をかけてくる。私の心臓だって、あの人に出会った日からとても忙しく仕事している。ドキドキどころか苦しいくらいだ。
土井さんが、私が握っているごま塩を見て、不思議そうに言った。
「なにそれ。どうしたの?」
「……ごま塩。昨日落として」
「は?」
私の救世主……よくあの時に、助けてくれた……! おじいちゃんありがとう!
病院にいる祖父に、いつも以上に心の底から感謝した。
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