理想の妻像とは

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 ……え、ひとりだよね?  一瞬、まさかと疑いを持って部屋を見渡した。送った荷物は既に届いて部屋に置かれている。高輪さんも明日の衣装が必要なはずだから、泊まるつもりなら置いてあってもおかしくないが、私の物しかない。 「うん。大丈夫、部屋には()れない」  この後、仕事が終わった頃には連絡があるだろうけれど、会おうと言われても外でと提案しよう。 「あの雰囲気は無理だし」  あの日から、ことあるごとに思い出してしまう。大人の男性が放つ色香に、圧倒されて何も考えられなくなった、あの空気が今思い出しても見悶えするほどに恥ずかしくて、なんだか胸が苦しくなる。  そして、少し擦れた声で、言われた言葉。  『触れるなというのは、聞けない』 『契約でも、妻だ』  契約結婚であっても、彼は私を本当に妻にするつもりだということだ。  契約内容に、お互いに不貞行為は禁止というのが入っている。立場のある人が、その配偶者が結婚後の不倫騒動など起こせば、今はネットであっという間に広まってしまう世の中だ。  私と結婚して、私が拒否したら彼は健康な男性なら当然あるだろう欲求を溜め込まなければいけなくなるわけで。  だから、彼は偽装なら受け入れないと言ったんだろう。致し方ないことで、真っ当な言い分だと思う。  でも、私にはまだ覚悟が出来てない。あれからずっと考えても、全方位丸く収まる答えを見つけられていなかった。  大丈夫。まだ妻じゃないし!  だから部屋に()れなくても許される、はず……!  
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