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一
佳奈とは北山大学の寺社サークルで出会った。
あまり金の無い学生が、行ける範囲の神社や寺を回りながらその歴史を学ぶだけだった。俺は他にもバレー部に所属していた。
二年になった時、俺は佳奈の事が気になり、側にいたいと思った。そして想いを告白し、俺達は付き合った。
大学を卒業して、各々の就職先で働くようになった。その内、いくらかの学生カップルが別れたと聞く中、俺と佳奈はまだ付き合っていた。
それから五年後、俺は佳奈と結婚した。
都心から離れた駅近くの、小さなアパートが、俺達の新居だ。
リビングやダイニングがどこかおしゃれなのは、佳奈セレクションの家具が並んだ為だ。俺にはそういうセンスがないと、家具屋に行った時に思い知らされた。
それから五年くらい経ち、三十五歳になって数ヶ月後、佳奈は倒れた。
余命三年。そう言われ、俺はあらゆる有名な医者を調べ、可能な限り見てもらった。だが、どこも同じだった。
俺は毎日見舞いに行き、彼女と色々話した。
「徹といると、病気の事考えなくなるから楽しい。事故はしてほしくないから、無理はしないでね」
彼女は笑っていた。俺は佳奈に何ができるだろう。そう思っていると、看護婦が俺にそっと言った。
「病院の中は、とにかく病気の事や死の事を嫌と言うほど考えてしまいます。ですから、貴方は、ここに来る前と変わらない、日常と同じように接してあげてください。髪が失くなってしまったとしても」
「……わかりました」
俺が思っている以上に、彼女は辛いのだと思った。そして、彼女が少しでも苦しさを忘れられるようにどうしたらいいかを考えた。
「可愛い」
佳奈の誕生日。俺は薄いピンク色のデジタルカメラを彼女にプレゼントした。そして俺は彼女に課題を渡した。
「佳奈さんに宿題です。何でもいいから、毎日一枚は写真撮ってください。それを見ながら、俺とおはなしすること」
「何でもって……注射とか、お薬とかの写真ばっかりになっちゃうよ」
「ダメダメ。じゃあ、訂正。佳奈が綺麗だと思う物を撮ってください。例えば、空とか、お花とか……」
「フフッ、分かった。ねぇ、どうやって使うの?」
「このボタンを押してだな……」
俺は彼女にカメラの使い方を教えた。二日前に電気屋のお兄さんに聞いたのと同じように話すと、佳奈は嬉しそうに笑って言った。
「分かった、ありがとう」
「宿題やらなかったら、罰としておやつは没収です」
佳奈の好物であるシュークリームを一つ取り上げる真似をした。すると彼女は得意気に笑って応えた。
「フフッ。徹と違って、私、優等生だったのよ。宿題くらいはちゃんとやるわ」
「俺と違うってのが余計だな」
「はいはい、元ヤンこわぁい」
「こういう学級委員が一番強いんだよな」
俺は、佳奈を見て笑って言った。
「佳奈は強い。だから、大丈夫だ」
「うん。宿題、ちゃんとやるわ」
佳奈はそう笑った。暫くして、彼女の手術が始まった。
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