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二
あれから何十年と月日が流れた。
四十歳過ぎから暫くは、佳奈のことを知らない人達から、独り身である俺を不思議がり、可哀想な独身男というレッテルが貼られていた。
しかしそれも、いつしか消えた。伴侶に先立たれていてもおかしくない年齢になっていたからであろう。実際、俺の友人にも、そういう者もいる。
幸か不幸か、俺は病院とは無縁だった。そんなある日、部屋で日向ぼっこをしていると俺はそのまま眠りについた。
気がつくと、俺は綺麗な花畑に立っていた。そして小川の向こうに女が立っていた。佳奈だった。
「おめでとう、徹」
佳奈は笑ってそう言った。いつの間にか若くなっていた俺は、小川を飛び越えて彼女を抱きしめた。
「ありがとう、佳奈……覚えてくれてたのだな」
「当然よ」
彼女は得意気に笑った。俺は彼女と手を繋いで、小川を背に花畑の中を歩いていった。
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