外伝2–7.屋敷を探検しましょう

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外伝2–7.屋敷を探検しましょう

 馬車の旅は順調で、家族ごとに馬車に乗った。国王ラインハルト陛下不在のウーリヒ王家、ヴィルの膝で眠るフィーネと私達のアルブレヒツベルガー大公家に続いて、アンネ達のシュトルツ伯爵家からなる臣下の列だ。  これほどの大行列は珍しく、沿道の人々の視線を集めた。その様子が楽しいと子ども達は飽きもせず、窓に張り付いて過ごす。退屈する間もなく、大公家の本邸へと到着した。誰かに襲われることも、馬車の故障も、悪天候もない安全な旅。その最後は、驚きで締められた。 「すごぉい!」 「これ、フィーネのお家?」  エレンの感嘆の声に続き、興奮したフィーネもヴィルの膝で体を揺らす。私はといえば、絶句していた。大きいと感心するより、どこまで敷地かしらと首を傾げる。ヴィルの話では、見えている範囲は屋敷の敷地らしい。森もひとつ入っているとか。 「湖や森、滝もあったので、退屈する暇はありません」  請け負ったヴィルの言葉に頷きながら、屋敷で迷子になる心配が浮上した。子供達が走り回ったら、見つけられない気がするわ。ローザ様やアンネとも話し合って、遊びから隠れんぼを外すようにしましょう。  敷地の入り口にあった門を潜り、あれから15分ほど。子ども達は目を輝かせている。まだ玄関に到着していなかった。ようやくアプローチの石畳で旋回を始める。降りると、王宮より古くて大きな屋敷が待っていた。 「旦那様、奥様、おかえりなさいませ。フィーネ様、エーレンフリート様、お会いできるのを楽しみにしておりました」  本邸を取り仕切る家令の言葉に、並んだ多くの使用人が頭を下げる。軍隊みたいに、乱れない挨拶に顔が引き攣った。私、とんでもない家に嫁いでいたのね。何年も来れなくてごめんなさいと口にして、本邸に入る。建物が石造りのためか、ひんやりとしていた。 「素敵な屋敷だわ、間違いなく王宮より広いわよ」  王宮の女主人に言い切られてしまった。いくら遠いとはいえ、もっと早く帰って確認すべきだったわ。宮殿並みの屋敷があるのに、王都に残ってもらったのはヴィルに申し訳ない。これからはシーズンごとに移動しましょう。  頭の中がいっぱいになりながら、屋敷を見て回る。案内された部屋は、美しい青の花模様が基調となっていた。大公妃の部屋として設られ、好みで家具や壁紙は変えてもいいですって? ダメよ、こんなに美しい部屋なのに。  客間のデザインも気になる。あとでロッテ様やアンネ達のお部屋も見せて頂きたいわ。わくわくしながら、膝に抱き着いたエーレンフリートと手を繋いだ。屋敷を歩くときは、必ず侍女を伴うようお願いされた。部屋の外に控えているんですって。迷子対策よね、きっと。  子供部屋は続きになっていて、もちろん夫の部屋も繋がっている。ひとまずやる事は決まったわ。 「フィーネ、エレン。屋敷の探検をしましょう!」
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