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深夜2時をまわった頃に、1歳半の娘がグズった。
「・・・・うるさいよ」
布団にくるまりながら、一瞥もせずに言いやがった。
私はグズった娘を抱きかかえ、リビングであやしながら、こいつはクズだと思った。
*
夜ごはん、鍋。
キッチンのコンロにあらかた片付いた鍋を運んで、〆の麺をいれた時、娘がグズった。
私は駆け寄り、夫は箸を手にしたままTV視聴。
娘をあやしてから、煮立った鍋をリビングのテーブルに戻した。
夫はすぐさま箸を入れて食し、一言。
「まずくない?」
「は?」
「のびてる」
「・・・・・」
あの時、こいつはカスだと思った。
*
娘を抱えてリビングへ。
先ほど帰宅した夫は、ソファにもたれてYouTube視聴。帰宅後、5分で、くつろぎモード全開なの、いつも腹立たしい。
「靴下脱ぎっぱなし」
「あー。ごめん、入れといて」
視線はスマホで私に視線を合わせもしない。
「ちょっと! そのぐらい自分でやりなよ」
「えー。無理、疲れてる、動けない」
帰宅後、腰を下ろすと、全く動こうとしないのはなぜなのか。
「私だって疲れてるんだよ!」
語気を強めにしたから、ようやく私の方を見た。
「あー。ごめん、ごめん」
「すぐ入れてきて」
「お願い、やって」
「君は赤ちゃんか? ねー?」
抱いている娘に同意を求めてみた。
夫は視線をスマホに移して、独り言のようにのたまう。
「疲れてるの、立てないの、後でやるから、風呂に行く時もってくから」
「ダメ。今して、すぐして、ちゃんとして」
「はぁ・・」と大きなため息をつく。
いや、ため息つきたいのはこっちだから。
手を伸ばし、掴んだ靴下を自分の腰の下において、何もなかったかのようにしやがった。
「わーかったから、もう何も言わないで、静かにしてくれ」
「そんなの、何度も言わせるからでしょ」
「あのね、俺、本当に疲れてんの」
いつもならこの辺で終わりにするのだけれど。
「私も疲れてる」
同じ言葉を繰り返した。
夫は苦々しそうに私を再び見上げる。
「朝6時30分に出て、今日は休憩もろくに取れなかったの!」
「で?」
娘の前で不毛なやり取り。
けれど、今日は言わずにいられなかった。
積もりに積もった不満が私の許容範囲を越えたかな。まぁ、元からたいして我慢強いわけじゃない。
「じゃあ、お前がやってよ、稼いできてよ!」
夫の顔が紅潮していくのが見て取れた。
「・・・」
「同じだけ稼いでこいよな」
もう、こいつはゴミでしかないのかな?
「う・・ぐぐ」
抱きかかえられた娘が不穏な空気を察知して、グズりはじめる。
夫も黙り込んだ私から怒り、失望、落胆の気配を読み取って、ヨタヨタと立ち上がった。
「あー。今のなし、悪かったー、はいはい、置いてきます」
*
静かにリビングのドアを開けて、戻ってきやがった。
私の前で肩をすぼめてみせる。
そして、再び、ソファにもたれこんだ。
「辞めて」
「は?」
「会社、辞めてよ」
家族ため、頑張って働いてると言いながら、平気で私を傷つけるのは、おかしすぎるでしょ。
今の仕事が夫を狂わせているのなら、辞めるべきでしょ。
「はぁ? 辞めてどうするんだよ、どうやって生活するんだよ、家賃、光熱費、車、保険にもろもろ生活費、どうやって食っていくのかな?」
心身を何かに侵されていることに、全くこの人は気づいていない。
「私が働くから大丈夫」
苦笑しやがった。私では無理だと如実に顔に出しやがった。
「悪かった、さっきの言葉なし、取り消します、ごめんよー」
以前はもっと、ましだった。ちゃんと優しかった。
私の可能性をもっともっと高く評価する人だった。
「ねぇ、自分がヤバいのわかってる? 家ではぐうたらするか、イライラしてばっかりで。今の姿が本当なわけ? 前が嘘ついてたってこと? 騙してくれちゃってた?」
もともとがダメな奴だったとしたら、別れるしかない。
私の目が節穴でした。サヨナラしましょう。
けれど、今の会社のウイルスに侵されているだけだとしたら、まだ見込みはあると思う。ん? 甘い? スパっといくべきですか?
「あー。悪かった、悪かった。ごめん、ごめん!」
「ごめんじゃない。退職届、いま書け、すぐ書け、ここで書け」
「は?」
「明日、離婚届取ってくるから。退職日、決めてこなかったら、届にサインして」
とりあえず言いたいことは言ったから、私の中のモヤモヤはだいぶ消えたね。
これから、いろいろ大変だろうけど、大丈夫、なんとかなるでしょ。
「ん~。かわいい!」
娘のプニプニの頬に、顔を寄せてスリスリした。
「やぁ~っ」
今はそんな気分じゃないみたい。
拒否られた。
END
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