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すぐに腕から離れてく温もり。彼女の耳は少しだけ赤くて、僕からサッと視線を反らす。
はじめて見る照れの表情に、心臓が鷲掴みされたように痛む。
――このチャンスを逃せない。
「一次会で帰るなら、送っていくよ。僕、車だし」
「え、いいよ、悪いし。確か、富丘くんちと方向全然違うよね?」
「―─大丈夫だから。じゃ、後で」
有無を言わせない態度を貫き、僕は彼女を背を向けて喫煙スペースに向かう。
「え、ちょっと」とか「待って」とか聞こえるけれど、聞こえないふりだ。
✳✳✳
飲み会を終え、どこか足取りのふわふわした彼女をつれて車までやってくる。
キーレスの電子音が、無人の駐車場内に妙に響いて緊張感が走った。
だって、車なんて密室だ。緊張しない方がおかしい。
「本当にいいの?」
「まだ言ってるの? だめなら誘わないし、。そんな状態で夜道をひとりで歩くのは危ないよ」
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