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失うくらいなら、僕は嫌われてもいい。
ずるくてもいい。もう、絶対に離すものか。
そう決意して、彼女の手を掴む自らの手のひらに力を込める。
その瞬間、彼女の大きな瞳が揺れた。
✳✳✳
「………ありがとう。」
そのまま半ば強引に手を引いた僕は、エレベーターを降りて、彼女を下の階にある自宅に招き入れた。温かいココアを勧めると彼女はそれを虚ろに見つめたままポツリとつぶやく。
目の前にいるのに、どこかおぼろげ。今にも消えてしまいそうだ。
隣に腰を下ろし、そっと問いかける。
「それで…………何があったの? 言いたくなかったらいいけど。 会社はいきなり退職するし、連絡はつながらないし…。屋上でタバコ吸ってたら、フェンスを乗り越えて、とびおりようなんてして――」
つい矢継ぎ早に疑問を連ねてしまうと、さらに黙り込む彼女。
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