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そして、今―─
✳✳✳
「………さと。ねぇ、真斗?」
「!」
名前を呼ばれて、振り向くと彼女が心配そうにこちらを見ていた。
どうやら僕は、過去の記憶に取り込まれていたようだ。
あの出来事が嘘のように時は流れ――
出会いから約十一年、あの夜から半年が経過していた。
「ボーっとしてたけど、大丈夫?」
彼女が――明日美が僕の目元をなぞる。
疲れてるか心配してくれているのだろう。ここのところ帰宅も深夜だったから。
「大丈夫だよ。思い出してただけ。君との軌跡を」
そう言うと、彼女はいつもちょっとだけ気まずそうな顔をする。
「軌跡……。私も今でも思い出すよ。真斗は命の恩人だなぁって」
あの時、この場所のフェンスの向こう側にいた彼女は、今では僕の婚約者である。
来月結婚式を控える僕たちは、誰がどう見ても仲睦まじいカップルで、あんなはじまりは誰もが想像ができないだろう。
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