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彼女は少し変わっている。
こんな淀んだ企業の中で、常に全力でクライアントに寄り添い、多忙の中、いつも笑顔でひたむきだ。
正直機転の利く僕には、ここで、全力で注ごうなどとする意味がわからなかった。
相手は、自分たちをコマのようにしか考えていない企業。
ある意味容量よく、ドライにこなすのが鉄則だと思ってきた。
けれども、一生懸命な彼女を見てるうちに、しだいに心改めるようになり、目が離せなくなった。
そう――僕は彼女に叶わぬ恋をしている。
「金里さん、ここ。ちょっといいかな」
彼女から受け取った資料をすぐに目を通し、外回りに行く前に声かけた。
話す口実を作るのは朝飯前だ。
「ここなんだけど」と資料を持ってデスクの彼女に近づくと。
「うんうん」と真剣に取り合ってくれる、可愛らしい横顔。
書類の文字を追う長い睫毛。柔らかそうな頬に。潤った唇。
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