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病めるときも、健やかなるときも
突然変異したウイルスの感染により、人類の三分の一が絶滅。
ある国の製薬会社がウイルスに対抗するワクチンを開発した。
世界中の国々がその希望であるワクチンを求め、国民たちに接種させた。
だがそのワクチンは、まだ研究や臨床実験が未熟な未知の微生物を媒体にして作られたものだった。
その微生物は人間の身体に入ると、予防どころか人の細胞を破壊し、遺伝子に異変をもたらす殺人ウイルスへと変貌した。
結果、ワクチンを接種した人々は次々と死んでいった。
だが悲劇はそれだけでは終わらなかった。
死人が蘇り始めたのだ。
蘇るといっても意識はなく、細胞だけが暴走し体を動かしている状態…つまり生きる屍だ。
そして生きる屍は人間を次々と襲い始め、感染は瞬く間に世界中へと拡がっていった。
209○年、春。
「いってぇ…!!」
桜も咲かない退廃した街の片隅で成宮ひばりはがぶりとゾンビに噛まれた。
「あ〜あ…どうすんだよ、これ」
ひばりは噛まれた腕に残る小さな歯形を見つめながらぼやく。
噛んだのは5歳くらいの子どものゾンビ。
いつもの安全なルートだと安心しきっていたのが間違いだった。
とりあえず水で流してみたものの、傷口は既にドス黒い紫へと変色してきている。
ひばりは押入れから救急箱を引っ張りだすと僅かに残っていた消毒液をふりかけた。
ジュッ、と焼けるような痛みに思わず眉を寄せる。
普通ならこんな時パニックに陥ったりなんとかできないかと足掻いたりするものなのだろうが、ひばりは至って冷静に自分の身に起きた事を受け入れていた。
きっと恐らく心のどこかでいつかこんな日がやって来る事を覚悟していたのだろう。
そしてどこか安堵もしていた。
これでようやく孤独から解放される、と。
ひばりはこの世界に生きている最後の人類だ。
といっても確証はない。
もしかしたらどこかに生き残りがいて、身を潜めて暮らしている可能性もある。
だが、ここ数年生きている人間を一度も見かけなくなった。
数年前までは他所から避難してきた人間や助けを求めて彷徨う人間がいたりした。
しかし皆襲われて目の前で次々とゾンビになっていった。
そんな悲しい光景を何度も目にしているうち、もうこの世には自分しか生き残っていないんだと思うようにした。
そうすれば希望や望みに振り回されて苦しまなくてすむ。
全てを諦めて一人で生きていく事ができると思ったからだ。
しかし、それは同時に孤独との戦いでもあった。
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