雪と後輩と初めての朝

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雪と後輩と初めての朝

「雪降って来ましたね」  僕の前をゆっくりと歩く女の子が、振り向きそう呟いた。緩く巻いた赤いチェックのマフラーにショートカットの髪先がふわりと乗っている。  そのマフラーは先月僕がプレゼントした物で、誕生日プレゼントが欲しいと直接本人が言ってきた。恋人でもない女の子に物を贈るなんて何だか変な気持ちだったが、時期的なものと相まって仕方なくマフラーを選んだ。  自称人見知りだと言う後輩は、気がつけばいつも僕のそばにいた。大学の講義も、サークルの時も気がつけばいつも隣にいる。  今も僕の目の前を歩いていて、人懐こく話しかけてくる。どこが人見知りなのだろうかと不思議に思う。  今も2人で終電を逃し僕のアパートへ向かっている。 「後どれくらいで着きます?」 「20分くらいかな」 「近くにコンビニとかあります?」 「あるけど……」 「じゃ、なんかあったかい物でも買っていきましょう」  楽しげに話す後輩に悪い気はしないが、はたして問題ないのだろうかと考える。  流石に自分の部屋で二人きりになると考えると妙に意識してしまう。  歩道には薄らと淡雪が積もり始めていた。   「コンビニ見えて来ましたよ」  降り続ける雪で冷えた体を摩りながら店内に入った。雪の降る深夜のコンビニには僕たち二人と店員だけだった。   「こんなに雪降ってるともう帰れないんで、先輩の部屋に泊まっても良いですよね?」  せっかくなんで少し飲みましょう、そう言いながら後輩はお酒とお菓子をたくさん買っていた。 「聞いていいですか?」  店を出て少し歩いた時に後輩が聞いて来た。 街灯に照らされる雪はまるで空からのプレゼントの様に優しく降っている。   「先輩童貞ですよね?」  唐突な質問に言葉が詰まった。間違いではないが、年下の女の子に言われるとは思ってもみなかった。   「見てたらわかりますよ」  くすりと彼女が笑って聞いてきた。 図星だ。変に見栄を張っても、取り繕ってもどうにも気まずい感じがするのでこの際振り切って開き直ってみた。 「彼女もいないし童貞だよ……キモいだろ」 「いいえ。先輩は可愛いです。さっきこれも買っときました」  後輩がコンビニの買い物袋から取り出したのはコンドームの箱だった。 「先輩の部屋に泊まりますけど、変なことしないでくださいね」 「じゃその手に持ってる物は何なんだよ」 「秘密です」  ニッコリ笑いながら腕を組んできた。歩くたびに彼女の形の良い胸が腕に当たってくる。 「変なことしないでくださいね。それと今度から私のこと名前で呼んでくださいね」  翌朝目を覚ますと、脱ぎ捨てたように僕のベッドの下には彼女の下着と開いたコンドームの箱があった。  そして僕の腕を枕にして、裸の彼女が気持ち良さそうな寝息を立てている。  降り積もった雪は街の景色も僕の気持ちも一変させてしまった。  奇麗なショートカットの髪を撫で、初めて名前で呼んでみた。 「六花(りっか)」  まだ寝息を立てている六花が起きたら、付き合って欲しいと告白しよう。  そして一緒に朝食でも買いに行こう。
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