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響は私の彼氏、だった。
どこかちょっと間が抜けていて、細かいことはあんまり気にしなくて、でも大事な時は守ってくれそうな、そんな人。
もうすぐ結婚する予定だった。6月になったらねっていって結婚式場を見て、どんなドレスを着ようかなとか、どんなプランにしようかな、といろいろ考えて、でも幸せになっちゃだめで、なんだかよくわからないふわふわの気持ちを無理に目減りさせながら、頑張ってそれなりに幸せな結婚式にしようと思っていたのに。
響は私の目の前でぽわんと『かいじゅう』になってしまった。
ここで指輪の交換をしようねって言ったその場所で。
酷い、ずるい、酷いよ。馬鹿馬鹿。
だって響が『かいじゅう』になっちゃったら、私は『かいじゅう』になれないじゃんか。私を幸せにするって言ってたじゃんか。私よりさきに怪獣になんないって言ったじゃんか。嘘つき。
……響がいなくて幸せになれるわけないじゃんか。酷い。酷い。
6年前に『かいじゅう』病が流行ってから世界から消えたものがたくさんある。遊園地、観光地、温泉、シネコン、スキー場。楽しくなる場所。
そして結婚式場。結婚式場は『かいじゅう』の多発ポイントだ。『かいじゅう』になるリスクが高い危険な場所。
だから結婚式場の契約をする前に大抵の人は『かいじゅう』保険にはいる。飛行機に乗ったりダイビングをする前みたいに。
『かいじゅう』になってしまったらその費用は全額返金で、『かいじゅう』になったことにまつわる諸費用が支払われる。
私と響も『かいじゅう』保険に入っていた。
だから『かいじゅう』になってしまった響の移動費用も保険からまかなわれ、響はとりあえず町立の『かいじゅう』一時保管所に収納された。そこは海に面した広い空き地。
響、物理的にはももう一緒にはいられないの。私たちが住んでいた1DKのアパートに『かいじゅう』は入れない。『かいじゅう』はとても大きくて人のたくさんいる町にもおいておけない。
だから『かいじゅう』になってしまった人はそこで町の家族や友達、みんなとお別れして、山奥や孤島にある『かいじゅう』保管施設に移動する。
そこではたくさんの『かいじゅう』がぼんやりと暮らしているらしい。
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