欠片

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欠片

 幸いにも私は意識を失う前に自室に戻ることが出来ていた。 吐き気が酷く、目を開けるのも辛いほどの頭痛は直ぐに意識を手放しそうになる。 それでもここで倒れていては透さんにばれてしまうと思ったのだ。 私は何とか階段を上って自室に到着するとそのままソファの上に体を預け瞼を閉じた。 「雪穂」 と私の名前を呼ぶ声がして瞼を開けた。 透さんと天井が目に入る。 「透さん…?」 「雪穂、なんでこんなところで寝ているんだ?」  スーツ姿のまだ帰宅したばかりであろう透さんと目を合わせる。 透さんは私の前髪を撫でながら心配そうに見下ろす。私はハッとして上半身を起こす。 「ごめんなさい、ソファで寝ていてしまったようで」 「風邪をひいてしまうよ。ベッドに移動しないと」 「ごめんなさい」  透さんはそう言うと私をベッドにいくように促す。 頷きながら手の中にあるものがあることに気が付いた。 (あの男性が手渡してくれた連絡先だ…)  透さんには今日のことを気づかれていない。私はベッドの中に入ると透さんに「おやすみなさい」と言った。 「うん、おやすみ。ちゃんと眠るんだよ」 そういう彼に私は何度も頷く。 くるりと向きを変え、私に背を向ける。しかし、すぐに振り返る。 「透さん…?」 「そうだ、雪穂。今日はこの部屋から出ていないよね?」 どきっと大きく胸が跳ねた。無意識に唾を飲む混む。まさか、透さんとの約束を破ってしまったことを…見知らぬ男性と門の前で会ってしまったことを彼は知っているのではと思った。
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