彼女の死

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彼女の死

 彼女の死は何かの間違いだ。 だから、直接彼女を見るまでは、涙なんて出なかった。 それなのに。 彼女は冷たくなっていた。 私は目頭が熱くなるのを感じるよりも前に泣き崩れた。 恐ろしかった。 人生で一番楽しい時間を過ごしていたから。 それは彼女のおかげだったから。 もう話せないなんて、一緒にライブに行けないなんて。  彼女が公園で、 「今までで一番、すっごく楽しかった」 と言ってくれた日。 なんで私も同じ想いだと伝えなかったのだろう。 私は彼女にどれだけ素敵な青春を教えてもらったのか、彼女は分かっていただろうか。 悔しくて、悔しくて、涙が止まらなかった。  お通夜には彼も来ていた。 彼女と彼は話した事があるのだろうか? 話したのなら、どんな事を話したのだろう?  彼女に、彼への想いも話せば良かったと後悔している。 どれだけ大切な想いだとしても、大切な彼女には本当は伝えたかった。  彼女の彼氏に呼ばれ、私は彼女からの手紙を受け取った。 自分の余命を知った彼女が書いた手紙。 日付が書かれていて、それはたった2週間前のものだった。 引っ越しや事務所との準備など色々とあるから、少しの間学校を休むと連絡を受けた2週間前。 彼女はどんな想いで、私に手紙を残したのだろう。 「夢に近づいてた矢先にさ。本当、悲しいよ。死ぬ前に会わせてあげられなくて、本当にごめん。手紙を読めばきっと、分かってくれると思う」 私は人のいない、外のベンチを見つけ、そこで彼女からの手紙を読んだ。 彼女の綺麗な字。 彼女のまっすぐな言葉。 「二人でいるときはいつも笑顔だったから、悲しい顔が見たくなかったの。伝えなくてごめんね。笑顔の記憶だけ持っていきたいと思ったから、許してくれる?彼氏とはいっぱい喧嘩したから、笑顔だけじゃないから、親友は特別。 その辺の親友とは全く違うよ。世界に一つの友情!本当に、楽しい日々をありがとう。またね」  辛かったけど、彼女の言葉が本当に嬉しくもあった。 世界に一つの友情。 でも、会いたい。 私の親友であり、私の憧れ。 彼女が女優になった姿を見たかった。  涙は止まらず、私はカバンの中から携帯とイヤフォンを出して、急いで彼の曲を聴こうとする。 手が震えるせいで、イヤフォンのコードがうまく解けない。 こんな時にも彼に救われようとしている。  彼女が言った、バンドマンの彼女の特典、という言葉。 それを言う彼女は格別に可愛かった。 彼を知れたのも彼女のおかげで、彼の曲を他の人より先に聴けたのも彼女のおかげだ。  ようやくイヤフォンをして、彼の曲を聴く。 彼女との思い出が恐ろしいほど沢山浮かび上がる。  その時、私の隣にペットボトルが置かれた。 顔をあげると、彼が立っていた。 確実に私と目が合う。 イヤフォンを外すと、 「少しでも、飲んでください」 と、彼の声が今までで一番近くで聞こえた。 「ありがとうございます」 彼は今、私が聴いていた曲が、まさか自分の作った曲だとは思っていないだろう。 私は涙を拭い、彼から貰った水を飲む。 「少し、落ち着きましたか?」 心配そうに私を見つめる彼。 「はい。ありがとうございます。本当に、ありがとうございます」 水のお礼もあったけれど、彼が作った曲へのお礼でもあった。 「じゃあ、行きますね」 彼はそっと、私の側から去っていった。 それが高校1年の、冬の始まり。 私が彼に再び会えるのは、それから5年後だった。
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