最大のチャンス

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最大のチャンス

  「楽器屋さんで見つけました。にな絵さん、fubeのファンでしたよね?」 伊之助さんが持ってきたチラシは、fubeが最終審査員となるオーディションだった。 「最後まで残れば、fubeに私達の曲を聴いてもらえるかもしれないという事ですよね?」 「そうです。にな絵さん、これ出ましょうよ!」 私はチラシの内容を確認する。 見落としのないように隅々まで確認する。 年齢も大丈夫だった。 「出たいです」 みな香も覗いてくる。 「お姉ちゃん、最終審査の会場。よく聞くよね。大きい会場!それに、優勝者はデビューだって!」 私はもう緊張してしまう。 「こんな大きい会場で歌えるなんて。楽しみだな~」 伊之助さんは楽しそうに、ミックスジュースを飲んだ。 もう、ステージに立つ前提だし、ステージに立つ事を恐れていないようだった。 これが、男の余裕。 つい見惚れてしまう。  それからは、みな香の結婚式で歌う曲の練習と、fubeに会えるかもしれないオーディションだけに集中した。 結婚式では妹の為に作った曲を歌う。 一次審査のデモテープには新曲3曲を入れた。 私が作った1曲、伊之助さんが作った1曲、二人で作った曲。 完成し、最終確認を終え、伊之助さんは満面の笑みで言った。 「今回、凄く自信があります。今までにない達成感があります。新しいバイトを始めて、新しい人と出会ったり、新しい環境にいると、今までとは違う感性が生まれるというか。最近すごくワクワクしています。なんだろうな...今もなんだか...初めて知る感情で...」 「私も。自信があります。広いステージで歌いましょうね」 「はい!」 「じゃあ、送りますよ」 「はい」 「本当に送りますよ」 「はい。じゃあ、いきますよ。せーのっ!」 私はパソコンの送信ボタンを押す。 二人の自信作。 どうか、fubeのいるステージまで行けますように。 そして。 優勝できますように。  妹の結婚式当日。 部屋を出て、隣の部屋のインターホンを押す。 「にな絵!綺麗だよ!」 久しぶりにおめかしした。 「和美さんも。いつも以上に綺麗です」 「妹さんの結婚式なのに、先に行かなくていいの?」 「今日はこの歌に懸けてますから。感謝の気持ちを歌で伝えたくて」 「そっか。素敵だね。あ、入って入って。伊之助が待ってるよ」 「うん」 部屋に入ると、鏡の前で変な踊りをしている伊之助さんがいた。 「にな絵さん!」 私は倒れそうになる程、ドキドキした。 いつもの笑顔の伊之助さんなのに、スーツ姿がカッコよすぎる。 「に、にな絵?大丈夫?」 和美さんが私の肩を叩く。 「大丈夫です...」 「いやー。僕、スーツなんて小学校の入学式以来ですかね。正直、嫌いだったんですけど…なんか、映画の完成披露試写会に出る俳優みたいで。それか、カッコいいダンス&ボーカルグループの一員の気分です」 「凄く、カッコいいですよ」 「にな絵さんも可愛いです。可愛いより、綺麗かな。良いですね!」 私はまた倒れそうになった。
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