無垢な優しさ

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無垢な優しさ

「今から歌う曲は、妹の幸せを願いながら作った曲です。みな香。結婚おめでとう。末永くお幸せに。私とも末永く、仲良くしてね」 拍手が沸き起こる。 今日は伊之助さんがギターを弾き、メインで歌うのは私だ。 息を合わせる。  歌っている最中、何度も泣きそうになってしまった。 当たり前に一緒にいた妹。 大人になり、少し離れていた距離を一気に縮めたかった。 この歌で。 心から幸せになってほしい。 今気付いた。 みな香も私を変えてくれた一人だ。 強く言ってくれた言葉があった。  ハモるタイミングを合わせるのに、伊之助さんの方を見る。 伊之助さんの瞳には涙が溢れていた。 私はつい可笑しくなってしまって、周りを見る心の余裕ができた。 みな香の方を見ると、ハンカチを目に当て泣いていた。 みな香の隣、旦那さんを見ると、みな香よりも泣いていた。 姉妹の好みのタイプは似ているのかもしれない。 私の隣、伊之助さんをもう一度見ると、号泣に近いくらい泣き出してしまう。 ハモってくる声が微かに震える。 私はこの状況が可笑しくて、愛しくて、幸せだった。 「本当に素敵な結婚式だった~」 夜の公園で、ブランコに乗りながら和美さんが言う。 「今まで見た妹の中で一番綺麗で、一番幸せそうでした」 伊之助さんは私の隣に座り、スマホを見ている。 「プロポーズの話、良かったな~。星空の下のプロポーズだよ。羨ましい。私なんか...私なんか靴の中に指輪が入ってたんだよ?どうしたらそういう発想になるわけ?餃子の中かと思いきや、靴!普通、靴はチョイスしないでしょう!まあ、そういう変なところも好きなんだけど。原始人みたいなのに、可愛いって、ギャップ萌えだよ~」 「和美さんの結婚式でも歌わせて下さい!ね、伊之助さん!」 伊之助さんはまだスマホを見ている。 珍しい。 一緒にいる時に、スマホを見ている姿はあまり見た事がない。 「にな絵さん。一次審査通りましたよ」 「一次?え、あのオーディション?」 「はい。次は二次です!」 「良かった!二次に受ければ、最終ですね?」 「はい。よーし。もっと練習しなきゃですね」 「明日から早速しましょう。あれ?伊之助さん、目が変ですね」 「なんか凄く重たいんですよね...」 和美さんがブランコから飛び降り、 「号泣したからでしょ!」 とツッコミを入れる。 「だって、なんか凄く良い雰囲気で...」  鞄に入れていたスマホが振動するのが分かる。 見ると、父からだった。 珍しい。 「もしもし?」 「あー。にな絵。遅くにごめんね。ちょっといいかな?」 「何?どうしたの?」 「さっきは言えなかったけど...今日、本当に感動したよ。にな絵の歌」 私は歌った後に両親と居た時、凄く恥ずかしかったのだ。 みな香の話ばかりをして、自分の話題にならないようにしていた。 「母さんも泣いてたよ。父さんも、泣きそうだった。頑張れよ」 「うん、ありがとう」 ”頑張れよ”。 その言葉が嬉しくて嬉しくて、私は泣いた。 堪える事はできなかった。  伊之助さんが私の頭を撫でる。 幼い子供が母親にしてあげるような、無垢な優しさがあった。 その優しさに、胸が熱くなる。
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