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みらいへむかってとべ
イオーナと暮らし始めて1週間が過ぎた。
僕がトラウマを語って以来、彼女はオナラを抑えようと懸命に努力していた。ただ幼いころからの習性は気持ちでどうにかなるものではなく、時おり気体が漏れ出ることがあった。僕は気付かぬふりをした。
日を追うごとに、彼女はやつれていった。今では目の下に黒々とした隈を浮かべているほどだ。
一方、僕の腹は放出されなくなった気体が溜まりに溜まって、丸く膨れ上がっていた。この以上オナラが出なければ、破裂してしまうかもしれなかった。
「お腹をさすりましょうか」
イオーナは心配そうに眉を寄せたが、触れただけでも皮膚が裂けるように痛むので断った。
直後、彼女は泣きながら隣の部屋に駆け込んだ。
オナラを出さないのが体質化している僕とは違い、彼女は「屁はこくべき」の社会で育ったから、生まれてからこれまでオナラを我慢したことがなかった。僕と一緒にいること自体、とてつもない苦痛だったはずだ。肉体的にも精神的にも追い詰められていたに違いない。
しばらくすると、イオーナが駆け込んだ部屋から、揮発油のような匂いが流れてきた。ドアの隙間から、高濃度の可燃性ガスが漏れ出していたのだ。
この状況は危険だった。オナラの主成分は窒素と酸素、二酸化炭素だが、他に水素やメタンなどを含み、時として激しく燃焼することがあるからだ。
「イオーナ、部屋の換気はしているのかい?」
返事はなかった。僕は不安を感じて、床を這うように隣室へ近付いていった。
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