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おならもんいおうな
僕は3021年へと時間移動して、絶世の美女・御鳴門イオウナと出会った。
彼女がすぐに救急隊を呼んでくれたおかげで風邪をひくこともなく、時間跳躍者救援センターへと収容された。僕は隔離され、検疫と時間跳躍者社会適合プログラムを受けることになった。
「退所まで、一週間ほどかかります」
収容される際、そう告げられた。
ところが次の日、僕は施設を退所することが出来た。親切なイオーナが身元引受人になってくれたおかげだ。
「どうして僕が過去から来たと分かったの」
僕はかつての都心とは、まったく違った風景に目を見張りながら尋ねた。
「屁を嗅ぐより明らかなことじゃない」
イオーナの返事を21世紀の日本語にすると、「火を見るより明らか」になるだろう。彼女に出会った時から薄々感づいていたけれど、僕が跳び越した1000年間に、日本語は面白おかしい方向に間違って伝わったようだった。
「ほんの数件だけど前例があるの」
「あるのか」
「だから全裸の人がね、『ぷっ』って落ちてきたら、『あっ、時間跳躍だ』と誰もが思うわけ」
つい手を伸ばしたくなるほど美しい胸を張って、自信満々に言われると、ただ頷くしかなかった。ところで、この時代のオナラに対する傾斜は何だろう。困った文化だ。
話題を変えようと、僕はあたりを見渡す素ぶりをした。
「あのさ、静かだよね。休みの日なのかな」
憧れの未来都市に来たのに、まだ1台も斬新な乗り物を見ていなかった。それどころか歩行者にもすれ違わないのだ。
「せっかく美人と歩いているのに」
聞こえるか聞こえないかの、「ぷ」という音のあと、イオーナが抱きついてきた。杏の花の香りが風に乗って、僕の鼻をくすぐった。
「シュウ! 私、うれしい」
「へ?」
「ぷぷ。だって私、『美人だ』なんて言ってもらったの、初めてだから」
イオーナは「ぶびっ」という音とともに、嬉しそうに身体を揺すった。僕の胸に当たっているおっぱいが、上下左右に動く。センターで支給された服は薄手で、まさに素肌感覚だったし、彼女が下着をつけていなかったものだから、僕はたまらない。
それに加えて次の瞬間、アンモニアの匂いと杏の花の香りが同時に鼻に飛び込んできた。僕はオナラをしていないから、この香りは彼女が発したものだ。
美と醜悪の概念、愛情と嫌悪の気持ちが一時に押し寄せてきて、頭の中を満たした。鼻と脳の間で、血の渦がぐるぐると巻いた。
情けないことに、僕はその場で気を失った。
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