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かのじょはちゅうをまっていた
イオーナの説明を信じるなら、僕に人生初のモテ期が到来したことになる。だがそれよりも、彼女がいろいろとあけすけに語りすぎることの方が驚きだった。
「あのさ、身元引受人って……」
「シュウがこの時代で生活できるように、私がお世話するの」
彼女が首を傾げると、ショートヘアーがさらりと揺れた。
「つまり僕がひとりで暮らせるようになるまで、面倒を見てくれるんだね。イオーナの家は近いの?」
「私の家も、ここ。身元引受人だもの」
僕の顔を覗き込んで、彼女は二重の目を弓形にした。なんだか妙にいたずらっぽい表情だ。ほのかにジャスミンの香りがする。
「寝るときもいっしょだからね」
「へえ……え、えええええ!」
横になんてなっている場合じゃない、僕はあわてて起き上がった。
「それって……、それって」
口がぱくぱくと動く。モテ期どころの騒ぎではなかった。
「私はシュウが好き。だから一緒に住むの」
「ここはイタリアですか?」
「違うけど? むかしばなしにあるでしょ。ほら、つるの恩返し」
「なんか違う気がする」
僕は彼女を助けていない。それどころか僕が鶴の役だ。なのに超絶美形の女主人は衣食住まで提供してくれるという。そんな都合のいい昔話があるだろうか。
「分かった。今までのはぜんぶ刹那の夢で、僕は今から電車に轢かれるんだね」
そうでなければ僕に、こんな幸福が訪れるはずがなかった。
「私と暮らすの、いや?」
小首を傾げたイオーナは、もはやいかなる言語を持ってしても表現出来ないほど愛らしかった。僕は声も出せなくなって、ただ首を左右に振った。
「じゃあそろそろ、初めましてのキスくらいしてくれてもいいと思う」
「そうだね……へ、えええええ、えええ!」
僕は、1000年の間に日本どうなった! と困惑しつつ、あわてて目を逸らした。彼女をこれ以上見つめていたら、何やらいろいろ暴発してしまうからだ。
「シュウ」
声が耳元で、した。彼女の顔が、吐息のかかるくらい近くにあった。目は閉じられていた。ほんのり匂うのは薔薇の香りだ。
彼女はチュウを待っていた。
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