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3月4日
「お子さんですか」
あまりに派手な驚きぶりだったのだろう。謝られてしまった。その声は確かに我が課のマドンナのもので、呆然としてしまった。
「待ち受け、見えちゃったので」
「姪です。姉の子どもで」
数日前に、壁紙を替えたばかりだった。人前でスマホを使うことを考え、悩み抜いて出した結論は、正しかったのか。
「この衣装、今流行ってるプリンセスですよね。でも、私が店で見たのとちょっと違う...」
ピンクの華やかなドレス姿は、女子の憧れなのだろう。作る側としては、サテンとチュール地の袖とスカートを膨らませるのに、かなり苦労させられた。
「お遊戯会の衣装を頼まれたので、作ったんです」
役は妖精なのに、プリンセスでいいのか。姉に言われるまま縫ったので、責任は負わない。
まさかドレスに食いつかれるとは思わなかったので、自分でもしどろもどろになっているのがわかった。ヘンなこと、言ってないよな。
「器用なんですね」
俺が器用というか、姉が不器用すぎるというか。都合良く使われてるだけ
「はーい、今行きます」
なんでしょうけどね...。
会話時間、実に45秒。しかも、中途半端なところで強制終了。
だけど、今日は晴れやかにビールを飲める気がする。今日ばかりは、姉の一言に頷いてやってもいい。
「アンタの趣味が役立つ日が来るなんて」
趣味なんだから、役立つかどうかではない。理想世界に没入できる、素晴らしい機会なのだ!
この口答えは変えないが、やっててよかったと現実世界で実感してしまうとは。
趣味のコスプレ衣装を自作しているうちに、裁縫の腕が上がりました...。なんて言えるわけもないので、姪には新しい衣装を作ってあげよう。
眼鏡を押し上げて、再び液晶画面と向き合う。現実世界の企業戦士・俺は、昼休みを返上しないと仕事を終えられないのだ。
ミシンの日
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