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またある晩、クワガタは、ぼんやりとお月さまを見上げていた。
なんだかさみしそうだったので、
「だいじょうぶ?」と声をかけると、クワガタはさめざめと涙を流した。
つややかな黒い背中が、月のひかりのなかにぼんやりとうかぶ。
アキラが背中をやさしくなでると、クワガタの涙はその小さな目からどうどうとあふれだした。涙はいつまでも止まらずに、やがてひとつの流れになり、幅を広げて川になり、ついには海へとほとばしった。
沖のほうでさかなが一匹、しゃぼん、とはねた。
よく朝、アキラはかあさんにきいた。
「クワガタって、泣くかな? 涙、流して」
かあさんは、少し首をかしげてから、軽くうなずいた。
「そうね、クワガタだって、悲しいことのひとつやふたつあるかもね」
クワガタは悲しそうだったよ。
かあさんの言い方よりも、ずっと。アキラはそんなことを思ったけれど、胸にしまっておいた。
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