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今夜のクワガタは、動かず下を向いている。
ちゃんと生きているかしら。どきどきしながらよく見ると、クワガタは本を読んでいた。前足で器用にページをめくっている。アキラの親指くらいしかないクワガタだから、本もずいぶんと小さい。
あんまり熱心に読んでいるので、アキラものぞいてみたのだけれど、小さすぎて何がかいてあるのかわからなかった。
「何がかいてあるの?」
クワガタは答えない。
仕方がないから、本を読むクワガタの背中をじっと見ていた。そのうちに、ページをめくるごとに、クワガタの背中がかしこそうに見えてきた。かしこくなる本を読んでいるに違いない。
どんな本なのかしら。アキラは考えた。
「おいしいミツの、ミツけ方」?
「森のひみつ100」?
「おおあごのお手入れおすすめ法」?
どれも違うようだった。
ぼくも、もっとかしこかったら、もっといっぱい考えつくのに。そうだ、明日からは、もっともっと本を読もう。
よく朝、アキラはかあさんに言った。
「クワガタが、本を読んでたよ。ぼくもたくさん読もうと思う」
かあさんはにこりと笑った。
「いいわねえ。知りたいことだらけよね。クワガタだって、人間だって。もちろん、本だけじゃわからないこともあるけどね」
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