② @ルイ

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② @ルイ

 チトの大事な『シオ』は聞いていた話と大分違った人物だった。  まず見た目がふわふわの天使だと聞いていた。  だが、実際は今時のイケメンといった感じで、『可愛い』の意味をネットで検索したくらいだ。  わたしの可愛いはチトで、チトよりも背の高くチトよりも筋肉質で、チトよりも低い声――ほら、天使とは程遠い。  わたしはチトと初めて会った時雷に打たれた気がした。頭から足先へ電流が流れていったのだ。そして天から光が差してチトを照らした。  わたしにはそれが『恋』なんだと分かっていた。それも『初恋』だ。  散々聞かされていた両親の甘い出会いと同じだったからだ。だけど、どうアプローチしていいのかは分からなかった。両親はお互いが恋に落ちたけど、わたしの場合はわたしだけ――。  だからまずチトにとっていい友人であろうとした。チトに寄り添い、チトと苦労を分かち合い、チトとよく話をした。  そこで出てきたのが『シオ』である。シオはチトの年下の幼馴染なのだそうだ。チトはシオを天使と言う。ならチトは聖母だと思った。  わたしはチトをどうしても手に入れたい、とは思わなかった。チトの事を知るにつれチトへの想いは深まっていったが、それはわたしだけの話で、チトのわたしを見る目には『友愛』しか見て取れなかった。それはこの先何があっても変わる事のないものだと分かっていた。チトが語るシオという存在。シオには絶対に勝てないと思ったからだ。たとえわたしの方が先にチトに出会っていたとしても結果は変わらなかっただろう。  チト、わたしを見て? わたしを愛して?  フランス留学を終えたチトが今度は日本で修行するという有名洋菓子店。既に定員に達していたがわたしは家の力を使って自身をねじ込んだ。そうして得たチトと一緒の5年という年月(じかん)。  だけどやはり何も変わらなかった。チトの心にはシオしかいない。  修行を終えたチトが実家へ帰り店を開くのだと聞いた。実家という事はシオの元へ帰るという事だ。諦めていたはずなのに心が痛い。痛くていたくてたまらない。  チトとシオふたりの間に割り込めない自分。  自分の想いを伝えられない自分。はっきりと想いを告げてフラれるのが怖かった。  それならいっそと気持ちを殺して友人として傍にいる事を選んだ卑怯な自分。  わたしは今まで何かを心から欲しいと思った事はなかった。  欲しいと思う前に全てが手に入ったからだ。  だけどチトは違う。チトが初めて欲しいと思った人で、チトが初めてわたしの手に入れられなかった人。    チトとシオの様子を傍で見守る事が存外きつく、痛みに加え身も心もじりじりと真っ黒く焦げていく。  どうしたらいいのか自分でも分からなくなっていた。だからシオに近づいて、シオの事を理解しようとした。そうすればわたしの心もどうしたらいいのか、答えが見つかると思ったからだった。 🌸ルイ🌸 e65a31e6-dd67-4aa6-9bc5-b5b7ce681c2a
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