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1 寝かせ過ぎた生地 ①
世の中には『賞味期限』なるものが存在する。加工品かそうじゃないか等一部例外があるけど、遜色なく美味しく頂ける期間って意味で設定されている。
*『消費期限』との違いや細かな事はここでは省略する。
『恋』は生ものだって言うけど、じゃあ恋にも賞味期限が存在するのか。
それとも『恋』は例外で、賞味期限なんてものは存在しないのか。
もし賞味期限があるとしたら、5年という月日は――――。
*****
最近の俺はこんな事ばかり考えていた。なぜかって? それは――――。
「紫央、これ新作の試作品。明日でいいから感想よろしくー」
この声の主、佐藤 千歳くんのせいに他ならない。
「りょー」と試作品の入った紙袋を受け取るとすぐさま中のお菓子を口の中に放り込む。
ひと噛みふた噛み、かみかみかみかみ良く味わってごくりと飲み込み、俺好みの味ににんまりと口角が上がる。
「千歳くん。これ俺が好きな味。超うまいよ!」
難しい顔から一変、破顔して少しだけテンション高めに感想を言う俺に千歳くんは苦笑する。
「こら、ここでは『オーナー』もしくは『佐藤さん』って呼べって何度言わせたら覚えるんだー? それに行儀が悪いぞ。感想は明日でいいって言っただろう? 家に帰ってから食べなさい」
「千歳くんは千歳くんだし、お菓子だって家までなんて待てない」
そう言うと、千歳くんは呆れたように溜め息を吐いた。
「家までって言っても隣りじゃないか。それにいくら俺たちが幼馴染だからってけじめってものをだなぁ――」
俺は折角笑顔になったのに千歳くんの言葉ですぐに表情を曇らせた。
幼馴染、確かにそうだけど俺たちにはもっと違う関係性があると思うんだけど、もしかしてなかった事になってる?
食べたばかりの甘く美味しかったお菓子の後味が、少しだけ苦い物に変わった気がした――。
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