ミンリンカンリ

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「突然のことで社員の皆さんが動揺してしまっているのも、それぞれの言い分もよくわかるわ。でも、喧嘩腰はやめてちょうだい」    あまり大柄とは言えない小堀社長が背筋をぴんと伸ばし、エントランス中によく通るアルトの声で皆に話しかける姿は存在感があった。 「私たちも大切な仲間をーー日沢さんをこんな形で突然奪われて動揺している。これまで私たちの仕事は社会正義の遂行に深く関わることだと信じていたからこそ、皆に不便を強いてでも厳しいセキュリティを敷き、社員の安全に気を配ってきた。そこに問題点がなかったかどうかは至急見直さなければならないけども、今、私たちが日沢さんのためにできることは犯人の逮捕、真実の追求なの」    これまで無秩序に騒いでいた連中が一様に静まり返った。 「今回の事件はその重大さが認められ、異例中の異例で警察庁サイバー局付属AI捜査研究室に捜査本部が置かれることになったわ」    その場にいた全員がどよめき、誰かが人垣をかき分けながら僕の脇を、前にどんどん進んで行ったーーそれまでそんな気配さえ感じさせなかったのに。彼が小堀社長の脇にすっと立つと、また違うどよめきがーー主に女子からーー起こった。 「捜査責任者の家入逸泉(いえいり いつみ)です。私の方から今後の捜査について皆さんに説明させていただきます」 AI捜査研究室とは完全AI捜査システム「アケチ」を司り、今後の日本警察の心臓部ともなり得るとも言われている部署だ。  AIーーつまり人工知能による捜査自体は今世紀の始めから、サイバー犯罪はもとより防犯カメラの画像解析や参考人のSNS解析、プロファイリングやテロ対策など科学捜査の各分野で部分的に導入されてはいた。  凶悪事件数も規模も日本とは桁違いの諸外国では、数十年前から既存のシステムを改良・統合しパーソナルカードに紐づけられた個人情報や交通管理システム、類似事件の捜査データ等から初動捜査の証拠を総合的に解析する完全AI捜査システムが捜査の主力を担うようになっている。その日本版が「アケチ」であり、コントロール・ルームには全国の警察本部からサイバー捜査の精鋭が集まっている。  家入室長はアケチの実用化に自ら携わった天才研究者にして優秀な捜査官であり、彼らのチームリーダーでもある。  
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