エクストリーム

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「イッチ。科学サークルの部室で過ごした十代の頃を覚えているかい。暗号遊びや映画作り、プログラミングに夢中になり、暗号遊びと科学にまつわるファンタジーの雑談に長々と興じた。宇宙の始まりに物質と反物質が存在していた話、シュレーディンガーの猫の話、ケーニヒスベルクの七つの橋の話ーーあの頃の俺は疑問で一杯だったんだ」  思い出した。ラン、それは僕もだーー全ての物質をーー地球でさえも通過してしまうため、三〇〇〇トンの超純水を蓄えたタンクと一〇〇〇本の光電子増倍管からなる観測装置によって初めて存在が確認された素粒子ニュートリノの存在も。 「国家の頂点、政治の中枢を担う選ばれし者たるべき人物達が『国民感覚がわかる』と謳いながら実際は誰もが、設楽博士はおろか北岡女史にすら及ばない無能な俗物で、問題を先送りすることだけに長けているのは何故なのか。そのツケとして僕らに手渡された世界は激しい気象変動で国土の一部は沈み、インターネットサービスだけが発達して食料生産も人の繋がりもボロボロだーーなのに誰も本気で怒らないのは何故か」 「あの時、エクストリーム・カミオカンデ建設の是非で世論は割れていた。君は将来、誰も造らないのなら大富豪になって自分が建てると息巻いていた」  ランは声をたてておかしそうに笑った。
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