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「外傷はなさそうだ。無音環境だったところにいきなりの大音響で、ショックを受けたんだろう」
「僕達……助かったんですか?」
「ああ。名古屋に来てた山之上達が、抜け道と廃道情報駆使して間一髪、駆けつけてくれた」
僕は悪酔いのような気分の悪さがまだ残っていてもう一度倒れた。
応援の捜査員たちに担架で運び出される途中でエクストリーム・カミオカンデのコントロールルームらしき場所を通った。捜査員や技術屋らしき十数人が計器類を調べたり床の一カ所に開いた穴を見守っていた。
この下が大量の水で満たされた観測装置のようだ。
「室長」
僕につきそう家入さんを山之内さんが呼び止めた。
「宮村滴は搬送先で一命を取り留めそうです。イー・ツェイはまだ発見できていません。タンクから大急ぎで水を抜いているのですが……」
家入さんは深刻な面もちで首を振った。
「もう45分経つ。低い水温や水深を考えると……」
あの巨大タンクの中に入っていたのは家入さんで、僕は脳内VRで彼の視点を追体験されられていたのか。そう言えばランがいつか見せてくれると約束した「新作のVR」ってーー
夢か仮想現実の世界がまだ続いているような気分だった。
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