ハジマリ

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 どんなにテクノロジーを駆使したトリックを用い、あるいは世界規模のネットワークにまたがる大事件、難事件の捜査であっても最後には、関わった人間の真実が何であったのか、という命題に行き着く。  それは時代が進み、AI捜査の比重が大きくなって行っても変わりない。  そもそも人間の犯した過ちを機械が解明する事がどこまで許されるのか。そしてそこに至る心の奥底の真実なんてものにどこまで辿り着けるのかーー当の本人にすら自分の気持ちなんて解らない事だらけもしれないのに。  それでも僕は、僕らが生きる社会の行く末を見守りながら僕にできることをしていくだけだ。無為と怠惰で過ごすには、家入さんに拾ってもらった平均余命はあまりに長い。 「島に行くとなると骨が折れますよ。公の定期便も無く地元の支援者が漁船で物資を運んだりしている他は、外部との接触はほとんどないようです」 「ーー身を隠すには最適ですね」 「君……まだ、彼が生きていると?」  驚きと呆れと痛ましさの入り交じった複雑な表情の家入さんに向かって僕は「根拠は無いですよ」と笑い返した。  「確率が限りなくゼロに近い、ただの希望的観測だとしても……僕やっぱり、ランのことを探したいんです」  やや沈黙があって、静かに家入さんの答えが返ってきた。 「……ジャケットの件だけは本人に聞かなければ迷宮入りでしょうね」  ただ僕らを翻弄したかっただけで特に意味なんて無かったのか、持ち主に対する愛憎が表裏一体の激情か。  アケチがどれだけアップデートしようとこれだけは永遠に解けないような気がしている。 (完)
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