ミンリンカンリ

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 正門から入ろうすると、あちらこちらに散らばっているレポーターに捕まって何か聞かれるのは目に見えている。入社前であっても箝口令に従う義務があるのかどうかはわからないが、そもそも何も知らないし面倒だ。  どうやって中に入ろうか思案しながら通行人のふりをして歩いていたがどこも人が一杯で、中にはSNSに上げるつもりなのかはしゃぎながら動画撮っている集団もいてイラっとした。  後でアカウント探し出してデータ全部消してやろうかな。  と、一人の女子社員がインタビュアーに捕まっていた。彼女が「いいえ、違います」と言っているのに「入っていこうとしましたよね?社員の方ですよね?」ってしつこいし、ダッシュで逃げようにも人だかりが邪魔だ。上下スウェットのワンマイルウェアでさすがに出勤中の会社員には見えないだろうに、マスコミの眼力は恐ろしい。  これが男ならたとえこれから同僚なり上司になる予定の奴だとしても「間抜けめ」と生ぬるい目で見てスルーするだけだったろうが、なまじ(しかも可愛い系の)女子だったからちょっと可哀想になった。 「おい君、ちょっと手伝ってくれ」  肩を叩かれて後ろを振り向くと僕と同年代くらいの男だった。肩までの黒髪を後ろで束ねた痩身で、極彩色のアニメタルバンドのTシャツにスキニーデニム、右の手のひらと二本の指に包帯……ウェイなのかオタクなのか、はたまた遅れてやってきた厨二病なのか判断しかねるが、僕とは逆ベクトルにイタそうな男だ。  黒瞳がちの切れ長の目が印象的で何となく見知った顔のような気もしたが、僕は元々友人は少ないしリアルのそれは皆無だからきっと違うだろう。 「女子のピンチは放っておけない。助けるぞ」「どうやって?」
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