ミンリンカンリ

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 奴は半ば強引に僕の手を引っ張ると「俺たちも社員ですが」とおもむろに名乗って割り込むと、カメラに向かってピースサインを繰り出しながら「やっぽー!サトぴー、モトちゃん、見てるー?テレビ映ったンゴ!ねえお姉さあん、これって全国放送?」などと奇声を発し始めた。  僕も「はあい、イッチだよお。事件現場ナウ。みんな見てるー?」と「空気の読めないはた迷惑なウェイ野郎」を必死で演じきり、めでたく即座にお引き取り願われた。彼はカメラクルーから離れると僕の肩を抱き、腹を抱えて笑い転げたーー初対面なのにやたら距離の近い奴で戸惑った。 「あははっ、やるな、君。サンキュー」 「どういたしまして……って、僕、本当はテレビに映ると全方向的にヤバいんだけど……昔、炎上して……」  願わくばリアルで僕を覚えている連中が観ていませんように…… 「ああそういえば、君、なんか見覚えある顔だな。SNSトラブル絡みで個人情報晒された、とか?」 「……まあ、そんなとこ……」 「大丈夫、まともなテレビ局ならあんな画、カットだよ」  頭の回転がやたら速そうな彼がすらすらとそう断言したので僕も少しほっとした。 「そうだよな」 「生中継でなかった場合は、だけどな。テレビ局は放送事故で炎上するが、どうせそれは一時的なもんだ。一方、俺たちは不謹慎なけしからんウェイ野郎としてネット民に身元を特定され匿名掲示板で半永久的にネタにされ続ける……」 「ひええっ!冗談だろ?」 「ああそうだ。君が誰か、思い出した」  さっそく身バレ?  現在、SNSも大っぴらにできないってのに、これ以上どうやって身元隠して生きていったらいいんだよ……次はばあちゃんの実家の名字でも名乗るか?祖父母不孝な孫でごめんなさい…… 
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