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「私のような者を心配してくださるとは。お嬢様のような心優しい主に恵まれて、私は幸せ者です」
「相手を気遣うのに、身分の上下なんて関係ないでしょう?」
「いいえ、この国では決して当たり前ではありません。貴族が平民を虐げ、能力者が一般人を奴隷のように扱う。生まれながらにして持てる者が勝ち、持たざる弱者が負ける。それが、いまの我が国の現実です」
「そう、ね」
「シレーネ家に召し抱えられる前は、お嬢様に言えないような危険な仕事も沢山こなしておりました。王子の身辺調査など、大したことではありません。お望みであれば、いつでもご用命ください」
失礼いたします、と一礼して、ソニアは私の部屋から出て行った。
はぁ、とひとつ、ため息をこぼす。
小説では悪役王子の役割を与えられ、大して深掘りされることもなくあっさり処刑されたシリウス。現実の人生は、なんと壮絶で悲哀に満ちたものだろう。
だが、この世界の未来はそう簡単に変えられない。修正されてしまう。
私がミーティアを殺そうとせずとも殺人未遂イベントは起こり、悪役令嬢エスターは追放された。
きっとシリウスを助けようとしても無駄。小説のシナリオ通り、悪役王子シリウスは処刑されてしまう。
(シレーネ夫妻をこれ以上、巻き込めない。それに私も危険なことをして、アデルに貰った命を無駄に出来ないわ)
「シリウス殿下のことは残念だけど、諦めるしかないのよ」
苦い気持ちに蓋をして、私は翌日からミーティアに近付くため『アデル』として忙しい毎日を送り始めた。
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