kite

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回線が生きているうちに。 端末を操作する。 繋がった。 「シロ!  今どこだ?」 『家だ。  すぐ塔に行く』 「その前に、  子どもを地下に連れて行け」 『なんで?』 「恒星からの風だ」 『!』 「なるべく影響を受けないように、  地下に連れてくんだ」 『…預けたらすぐ戻る』 これくらいしかできない。 あとは何をしたら。 どうしたら。 駆け戻ると。 すでに塔内は騒然として。 人でごった返していた。 いつもの塔と全く違う。 人で溢れているけど。 全然足りていない。 レベル3の鉛の作業服を着る。 自分の鳥を撫でる。 翼は橙と白に塗っている。 凧座の両翼の2等星の色だ。 「行ってきます、  姉さん」 カイトは。 空高く飛んでいく。 拾っても。 拾っても。 空にはゴミ。 警報はまだ戻らない。 拾うたびに重くなる。 舵を無理矢理動かして。 昇っては降りて。 圧縮も限界だ。 ゴミを下ろす作業中。 ブルームが次々に戻ってくる。 屋上に。 各班の班長。 整備長。 事務長。 それに社長。 「レーダーは?」 「予備も壊れた」 「鉄の鳥の整備を急げ。  計器の故障にも気をつけろ」 「地下との非常回線を繋いだけど、  いつまで持つか分からない」 副班長が降りてきた。 「今日は“当たり”だ。  こんな日に限って。  10分交代じゃ装備も人も持たないよ」 頬についた汚れを拭う。 「ユキさん!」 ずっと上にいた他の班の班長が戻った。 整備係が計器を見て青ざめる。 「上層は風が強すぎます!  ユキさんはもう飛べません。  上は3分交代にしないと」 ユキさんは担架に乗せられて。 医務班が連れて行く。 「それじゃブルームが足りない」 「ダストパンでも撃てるだろ」 「今日は“当たり”だ。  ダストパンでは追いつかない」 「次は俺が出ます」 カイトは。 そう言って。 割り込んだ。 「ブルームの訓練は十分受けてます。  飛べます」 「こら、カイト」 副班長が押し戻そうとするが。 班長が止めた。 凧は。 風を受けて空を飛べるって。 このことだったのか。 「俺、  ゴミ山で拾われたんです。  多分惑星で遺伝子操作されてる。  これまで病気をしたことがないし」 その場のみんな。 顔を歪める。 「風の中でも飛べます」 「カイ…」 「こういう時のために、  俺に教えてくれたんでしょう」 班長を見る。 「計器が壊れる可能性があるので、  こまめにチェックを。  3分経つと警告音がするので、  戻ってください」 整備係が慌ただしく説明する。 「了解」 訓練用にと用意されていた。 カイトのための。 真新しいブルーム。 「専用の細かい調整はできてません」 「普通に飛べりゃ、  大丈夫だよ」 空を見上げる。 星座が陰る。 「行ってきます、  姉さん」
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