4人が本棚に入れています
本棚に追加
「シロ、
子どもはどうしてる?」
「まだ一応大事をとって、
地下で預かってもらってる。
地上に出たいと騒いでいるらしい」
「そうか」
引き取ってすぐの頃に。
一度会ったきりだ。
「じゃあこれ、
暇つぶしにでもって、
渡してくれ」
「星座の本?
喜ぶよ、
ありがとう」
風のない夜は。
穏やかだ。
「あの子とちゃんと会えてるか?」
あの日。
落ちたカイトを救出に来たのが。
シロだった。
あの子というのはアミのことだろう。
意識を失ったカイトに付き添って。
通信も復旧しない中。
ずっと一緒に救助を待っていたらしい。
「うん。
今日も店に来いって言われてる」
「そっか。
良かったよ」
「何が」
骨折して。
カイトはしばらく休職中だ。
今日は。
シロがブルームに乗る日で。
それを見届けにきた。
「カイ、
いつだったかお前が教えてくれたのを、
思い出した」
鳥に跨ったシロが。
ゴーグル越しに見る。
「凧座の中心の赤い星は、
他の星座をいくつも跨いで、
遠くの青白い1等星と繋がってる。
それは凧が地上につながる糸で、
その糸がないと、
風の中で飛べないからだって」
そう言って。
にこりと笑って。
空高く登っていった。
「うるさいな」
姉が教えてくれた意味が。
今になってやっと分かった。
店に行くと。
アミがちょうど来ていた。
いつもと服が違う。
長い髪を下ろしている。
こっちは怪我が治らなくて。
包帯やらギプスやらで情けない姿だけれど。
「行こう!」
約束のやり直しだ。
賑わう表通りを歩きながら。
聞いてみる。
「アミ、
あのときゴミ山にいたの、
なんで?」
「なんでだろう…
落ちるのが見えて、
カイトなんじゃないかって思ったら、
怖くなって」
「俺だと思った?」
「カイトが飛んでるのは、
いつも見てたから。
橙と白の翼でしょ?
常連さんに聞いて知ってた」
「でも、
あの時の機体は違っただろ」
「うん、
だからカイトのわけがないって思ったけど、
ずっと飛んでるの見てたら、
似てる気がして」
「似てる?」
「飛び方とかが」
随分じっくり見られていたらしい。
「なんかすごい恥ずかしくなってきた」
「私も、
自分で言ってて変態だなって思った」
笑い合う。
星々は。
穏やかに。
地上を照らしている。
「今日はあんまり、
降らないといいな」
終
最初のコメントを投稿しよう!