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シャワーを浴びて。
匂いを念入りに落とす。
それでも。
なにかこびりついてる気がして。
イライラする。
今日はだめだ。
このままじゃ眠れる気がしない。
髪を乾かし。
私服を着て。
下宿の部屋を出る。
行きつけの店に顔を出す。
店員の女に笑いかける。
最近仲良くなった。
歳の近い友だちだ。
「アミ」
「カイト、
仕事終わりじゃないの?」
「いると思って。
会いたかったから」
笑いかける。
「わざわざ着替えて来たの?」
「仕事着で来ると、
店のみんな騒ぐだろ」
「そりゃあそうだよ」
ゴミから都市を守る。
正義の味方扱いだ。
実際には。
臭い水を浴びながら。
ガラクタを集めるだけなのに。
だめだ。
元気を出したくてきたはずなのに。
考えが深く落ち窪む。
「カイト?
食べないの?」
アミが顔を覗き込む。
いい匂いのする器を差し出す。
今日は彼女と会うと。
自分の仕事が。
ひどく情けなく思えてしまうみたいだ。
飛んでる時は。
考えないのに。
空腹を癒す美味い飯を作って。
暖かい場所で。
人を迎える仕事をしている。
彼女と会う前に。
自分の仕事の痕跡を。
執拗に消している。
「なんだカイちゃん、
ホントに元気ないな」
店長が厨房から顔を出す。
「アミちゃん、
景気付けにデートでもしてやんなよ」
「え?」
「え?」
眉をひそめるカイトに比して。
アミは身を乗り出す。
期待を込めた目で見上げられて。
断れなかった。
店はカウンターと少しのテーブル。
美味い飯と酒を出す。
カイトは酒は飲まないが。
店長のお気に入りだ。
カイトも店を気に入っている。
柔らかい照明と。
いい匂いと。
表通りの喧騒から少し離れて。
馴染みの客が沢山いる。
「明日の昼、
店で待ち合わせね」
飯代を払う時に。
アミに再確認された。
最初は乗り気でなかったが。
暖かい飯を食って店長とアミと話すうちに。
楽しみになってきた。
「うん」
頷くと。
「やっと笑った。
よかった」
ずっと笑ってるつもりだった。
作り笑いは。
見抜かれてしまっていた。
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