kite

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「おはようございまーす」 出勤したカイトに。 副班長が手をあげる。 耳には受話器を当てている。 「ヒョウさんから電話。  今日の午後に応援出せないかって。  シロが、  子どもが熱出したって」 「それって…」 待ち合わせ場所を。 店にしておいてよかったと。 頭の中で思っていた。 店の暖簾をくぐって。 ひょこりと顔を覗かせる。 「アミちゃん」 「店長、  服変じゃないですかね?」 いつもよりおしゃれして来たアミに。 店長は大盛りの丼を出す。 「店長、  待ち合わせなんですよ。  こんなに食べてたら出かけらんない…」 店長の顔を見て。 表情は萎む。 「カイちゃん、  同僚の子どもが熱出しちゃって、  穴埋めしなきゃならなくなったんだって。  さっき店に電話があって、  ごめんって言ってたよ」 「そうですか…」 席につく。 「残念だね」 「はい…」 おしぼりを握る。 「ゆっくり食べな」 「お代はカイトにつけてください」 箸を割る。 麺をずるずると啜る。 熱い湯気が沁みる。 鼻をかむ。 「仕方ないですよね。  この都市を守ってくれてるんだから」 「そんな、  聞き分け良くならなくたっていいの」 「じゃあ次会ったら文句言ってもいいですか?  いつも仕事大変で、  疲れてるのに。  今日も穴埋めで頑張ってるのに、  私まで怒ったりしたら…」 「カイちゃんのことどうでもいいなら、  笑って流しちゃえばいいよ。  でも、  それならもう二度と、  デートはないでしょ」 「そうですよね…」 一通り泣いて。 そのまま帰りたくないと言って。 店を手伝って。 色んなお客さんに励ましてもらって。 夜。 帰り道。 カイトと一緒に帰ったある夜を。 思い出していた。
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