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その日はたまたま仕事上がり。
カイトも店を出るところで。
なんとなく。
夜道を並んで歩いた。
カイトはずっと空を見上げていて。
途中までは。
仕事の癖かと思っていた。
「ゴミを見てるの?」
「え?」
「ずっと、
空見てるから」
「…違うよ。
星座を見てた」
「星座?」
「ちょうど目の前に、
ハス座」
「どれ?」
頭を寄せて。
星を指す。
「あの赤い星と白い星。
あれを線で繋いで、
そこから線の上側にある5つの星、
あのそれぞれに線を伸ばす」
「どの星?」
頬がくっつきそうなほど寄って。
「あの星と、
すぐ上の星と、
その右側に三角みたいになってる星」
「ちょっと赤い?」
「うんそう、それ。
赤いのは花びらの色にも近いしね」
「なんで、
それでハスなの?」
「ハスの花は泥の沼に咲くんだよ。
下の線は水面で、
そこから花が伸びる様子を見立てたんだ」
耳元で囁く声に。
鼓動が高鳴る。
「よく知ってるんだね」
顔を離しながら。
「姉が、
毎日のように星を見て、
教えてくれた」
「お姉さん?」
「うん、
俺を育てた人」
「カイトの親代わりの人か。
会ってみたいな」
「もういないんだ。
何年も前に、
事故で」
「ごめん…」
「ううん。
大丈夫」
そう言ってカイトは笑っていた。
あれは作り笑いじゃないと思ってた。
本当はどうだったんだろう。
今日は。
ハス座は高い位置にある。
カイトが都市を守るからじゃない。
姉に教えてもらった星座を。
何年も経った今でも覚えてる。
カイトがカイトだから。
もっと一緒にいたい。
「よし」
アミは。
顔を上げて。
歩みを早めた。
次にあったら少しだけ怒ろう。
それから。
もう一度。
約束しよう。
そういえば。
今日はゴミ。
降っていないな。
空は。
晴れ渡っている。
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