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遠目から三人を見つけた三峰はすぐにそこへと向かった。ここに来る途中、山本と浜田に出会ったが二人には山の中を探してもらっていた。
結果、こうして警察官が取り逃しているのに、仁たちは飯島ジュンゴの事を見つけている。
それがどんなに情けない事なのか、三峰はとにかく走った。近くまで来た時、その非道な光景に三峰はこれまでに感じた事のない怒りを覚えた。それは飯島ジュンゴが仁を人質にとり、少女に酷い事をさせていた。
まだ年頃の少女の服を剥ぎ、人権をそこなわせるほどの行為を強要している。同じ女性として最悪の光景だった。きっとあの少女は仁の為に、あんなにも非道な行為を羞恥に耐えながら行っている。しかも、あの光景は別荘で仁が見せた映像と瓜二つだった。
三峰は上空に向かって拳銃を発砲する。これは威嚇だった。そうして少女の元へとすぐに駆け寄る。
「もう大丈夫」
そうして三峰は着ていたジャケットを少女に羽織らせ、少女は三峰を見て安心したのか、目からは大粒の涙が溢れていた。
「‥‥大丈夫。大丈夫だから後は警察に任せて」
三峰は少女を抱き寄せる。その身体は小刻みに震えている。
「誰かと思えばへっぽこ刑事さんじゃん。あんたに何が出来んの?」
飯島ジュンゴは仁の上に座っている。仁は大量の出血のせいか、すでに意識は朦朧としているようだった。状況はあまり良いとは言えなかった。
「この拳銃は脅しの道具じゃないわ。これ以上抵抗するなら私はあなたを撃つ」
三峰はまっすぐに飯島ジュンゴに拳銃を構える。迷いは既になかった。志田に言われた通り、自分の正義を貫くともう決めていた。
「‥‥おいおい。撃ったら大問題になるんじゃねぇか?」
三峰は銃を構えながら飯島ジュンゴに近づいていく。警察としての立場などどうでもよかった。三峰は飯島ジュンゴがこれ以上、抵抗をするつもりなら本当に撃つつもりだった。
しかし飯島ジュンゴはあくまで逃げる気ならば、仁の事を殺すような事はしないと思った。しかしあまり刺激をしすぎると何をするかわからない。それを念頭に置きながらゆっくりと近づいていく。
「これ以上近づくんじゃねぇ! 本当にこいつを殺すからなっ!?」
その時、飯島ジュンゴの背後に三峰の発砲音を聞きつけてくれたのか、山本の姿があった。ゆっくりと飯島ジュンゴに近づいている。
「そこで殺したら、あなたの罪は一気に重くなるわよ。もうあきらめなさい」
「うるせぇ!! 大体俺が何をしたっていうんだよっ! そもそも俺もこいつに襲われた被害者だろうがっ!!」
この飯島ジュンゴと言う少年は、見た目こそもう大人になりかけているというのに、思考は子供そのものだった。自分のした事は棚の上にあげ、回りが悪いだのと喚く。結局反省すらしていない。今だって警察に捕まりたくないから抵抗しているだけなのだ。
きっと彼は今でも本当に思っているのだろう。自分は悪くないと本気で。
「‥‥かわいそうな人」
三峰は自分でも気づかないうちにつぶやいていた。彼はきっと生まれてから、誰かの為になんて思った事は一度もないのだろう。自分中心で考え、思い通りになってきてしまったのだろう。その結果がこの最悪の事態を招いた。
きっと飯島ジュンゴは捕まったとしても、反省をしないだろう。形だけの懺悔を終えたとしたら、また罪を犯すかもしれない。
ーーでも、こんな人間でも変わってくれると未だに願うのは三峰の怠慢なのだろうか。人の痛みを理解し、人の為に生きるようになってくれと願うのは幼稚なのだろうか。こんな人間でも助けたいと思ってしまうのはおかしいのだろうか。
「そんな目で俺を見んなよぉ!!」
飯島ジュンゴがナイフを仁に向け振り下ろした。それと同時に三峰は引き金を引いた。
ーーそして一発の大きな銃声が響き渡った。
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