14人が本棚に入れています
本棚に追加
***
三峰の放った銃弾はあの時、飯島ジュンゴの腹部をかすめた。その結果、仁を無事に救出することに成功した。背後にいた山本が飯島ジュンゴを確保してくれたのだ。手錠をかけられた後も、飯島ジュンゴは抵抗をしていた。色んな罵声を吐きながら、大声で叫んでいた。
滑稽だった。それでも三峰は罪をしっかりと受け入れて欲しかった。自分の犯した事と、どれだけの人を傷つけたのかをちゃんと理解して欲しかった。
志田はあの後、事件においての責任を全て背負い警察官を退職した。
目の前にいておきながら二人の犠牲者を出してしまった事や、白石仁の関連の事。それは全て自分の責任だと言って三峰の前から姿を消した。そのおかげもあってか白石仁も犯人にこそ危害を加えたが、正当防衛に当たるといったように処理をされた。
警察の組織としても、少年たちの暴走を止められなかったこともあり、事件のほとんどの出来事は改竄され、全容はほとんど公にされていなかった。隠蔽というのが本当にあるのだと三峰はこの時、初めて実感した。
もっとも、真実なんて当人にしか分からないことばかりで、この世の中は嘘だらけ。実際、三峰自身も目の前の上司の気持ちすら分かってはいなかったのだ。
三峰が発砲した事も数日の謹慎だけで、その他には何のお咎めもなかった。これも志田がきっと裏で手を回してくれたのだろう。
三峰の中では未だ答えの分からない正義。そして、憎しみや復讐。人の感情は法では測れない事もあるのだ。きっと三峰はこれからも探し続けるんだろうなと笑った。
ポケットから煙草を取り出し三峰はそれを咥える。そしてライターで火をつけた。
「あっ! ここにいたんですね三峰さん! 通報が入ったんです! 現場に急行して欲しいとのことです!」
志田の代わりに新しく三峰と組む事になった、藤堂真斗は息を切らしながら喫煙室までやってきた。彼は三峰よりも若く、三峰には初めてできた部下だった。
藤堂は煙草が嫌いなのか、三峰を見て顔を歪めた。
三峰は煙草を吹かしながら藤堂に呆れたように聞いた。「また事件? 概要は?」
「窃盗事件のようです! 詳しい事は現場で聞けとのことです!」
三峰はまだ火をつけたばかりの煙草の火を消した。鼻の奥には懐かしい匂いが漂ってくる。
「‥‥そう。じゃあ急ぎましょうか」
「あの、三峰さん。煙草あんまり似合わないですね」
藤堂は三峰の機嫌を損ねないようにしているのか、控えめに顔色を伺いながら言った。
「そうね。どっちかっていうと私も嫌いだったかも。‥‥でも、藤堂もきっとそのうち好きになるよ」
藤堂は意味がわからないと言った感じで、顔を傾けた。そんな藤堂をよそに三峰は気を引き締め、準備をする。
拳銃をホルスターに収める時、改めて誓った。この正義はもう決して迷うことはないだろうと。
そして、これからも正義を三峰は探し続けるのだろうと。
最初のコメントを投稿しよう!