1992年・夏

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1992年・夏

 1992年8月30日。  永遠の彼方にあるような時間が、その時から私の胸の中で輝いた。  時は流れ、私は舞台演劇を始めていた。本番を2週間後に控え、その日から立ち稽古に入る予定だったが、大口のチケット販売に行くということを理由に稽古をNGにして、29日の夜の稽古が終わってから、レンタカーを借りて、裏磐梯へと飛ばした。K子はやって来てくれるだろうか。10年ぶりの裏磐梯。  桟橋の駐車場に車を止め、待った。  何時という約束をしたわけではない。  夕刻、陽が傾き、湖面を西日が朱赤に彩り始めた。遊覧船がやって来た。なんとなく眺めていたら、こっちに向かって手を振っている人がいた。  まさか・・・。 「!」  K子だった。  2人の子どもを連れていた。きちんと挨拶をしてくれ、近くのレストハウスに入って、ひとときを過ごした。上の女の子の何気ない表情が、どういうわけか私が幼稚園の頃の雰囲気を醸し出していて、何ともおかしな気持ちになった。しかしそんなことを質問するわけにはいかない。別れ際、 「また10年後・・・」  今度は私が叫んでいた。
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