混濁の中に消える声

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混濁の中に消える声

 いつから強く願ったのか。  いつから強さを求めたのか。  なんのために?  混濁する意識の中でも、それだけは考えられた。誰かの呼びかけに答えずとも、ただ、それだけは。 (……何を、言っている)  脳裏に浮かぶのは幼き頃の己の姿。傷つき、絶望の日々の中で強さを求めた忌まわしき日々。 「つよく……なるんだ……を……に……」  どうしても聞き取れない。強くなる理由を、何故か思い出せない。 (……どうして、こんなにも……)  弱ければ死ぬしかない、死にたくなければ強くなれ。  その信念に亀裂が走っていることなど、わかりきっている。  だが簡単に捨てられるものでもない、諦められるものでもない。  再会した師は強く、遠く、敵わないと思い知らされた。自分が築いたものを一瞬で瓦解させ、心を砕き、身体を切り裂き、骨を凍らせるような強さ。  どうすればあそこまで強くなれるのか、どうすれば越えられるのか、わからない。  でも。  師が作り出した絶対的な力を示す魔法剣とぶつかり合い、その後、自分はどうなったのか?  足掻きとばかりにぶつけた合成魔法の防御は容易く打ち砕かれていったのは覚えてるが、そこから先が、思い出せない。 (どうして……私はここに……? なぜ、わたしは……つよく……)  意識が闇へと消えていく。昏睡の帳が降りてしまう。  手を伸ばしても誰も掴む事はない、ただ深淵へと沈むだけ。  強さの意味を求め始めた歌姫ルリエは、何を(のぞみ)、何を願う?
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