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岡田はしばらく黙り込んだ。
……これが、木暮か。俺、間違えてねえかな。
肩ほどはあるだろう、一年くらいブラシを通していない疑惑が浮かぶぼさぼさな髪。その髪が頬から口元までまとわりつき鬱陶しい。黒くて太いコスプレ的な瓶底眼鏡で目元もみえない。しかし唯一クリアに見える鼻は、確かに平沢が言うように筋の通ったきれいなものに思えた。
「……だれぇ?」
そのままの姿勢で木暮が聞く。姿勢と同じくけだるい声だ。
「木暮くん、だよね。……平沢の友人だ。話があるんだ」
「……だれぇ?」
声も姿勢も変えずに繰り返す。否定はしないから木暮ではあるらしい。しかし、誰って。……俺か。まさか、平沢のことか?
「俺は、岡田という。平沢の同僚でもある。平沢は、平沢裕也。知ってるよな?」
木暮の顔は動かない。岡田を見てはいるようだ。こちらからは見えないのに、一方的に値踏みされている感じで気持ちが悪い。
「……いるの?」
「いや、俺だけだ。君と二人で話したい」
木暮はプイっと顔を机に戻した。
なんなんだ、こいつ。マジで大人をなめてやがる。だが我慢だ、ここでドツいたら本当に不審者だ。言葉で動かすならば何をどう言うべきか……。
岡田がいらいらし始めた時、木暮は再び顔を上げた。
「三人ならいいよ。今夜九時に、いつものところで」
平沢も、か。……いつものところ?
しばらく考え込んでいると、木暮は急に、不自然に大きな声を出した。
「ねえ、おじさん、入校許可証、持ってんの?」
教室中の生徒が、何ごとか、とこちらを見る。
くそっ、この野郎。
仕方がない。とりあえずここは退散だ。
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