出会い

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 昼飯代わりにシリアルバーをかじりながら社に戻る。  平沢に報告をし、仕事が終わると軽く夕食を食べてからいつもの場所とやらに向かった。  新宿歌舞伎町近く、裏通りの喫茶店。神楽高校からは随分遠い。場所も時間も、高校生の活動範囲にしては不健全だ。中には半個室がいくつもあり、大声を上げれば一応犯罪からは逃げられそうな気がする、という程度にプライバシーが守られている。  四人掛けの席だ。岡田と平沢が並んで座り、五分ほどしたところで木暮がやって来た。  黒のスリムパンツに黒の帽子、胸元の開いたグレーのシャツを着た縦長の男。すたすたとテーブルに近づくとセルフで持ってきたコーヒーを置き、平沢の向かいに腰を下ろす。  目深にかぶっていた帽子をとると、室内の空気が変わった。  昼のぼさぼさ髪がウソのようにきっちりとまとめられ、おかしな眼鏡もない。すっきりとしたあごの輪郭に筋の通った鼻、形良く長い眉の下には妖艶という言葉が似合う、切れ長で黒目勝ちな独特な瞳。少し厚みのある赤い唇が白く滑らかな肌に映える。  ……確かに、これは。  しばらく見とれていた岡田の脳裏に、本当に美しい生き物なんだ、という平沢のセリフがよみがえる。  木暮はひとことも喋らずに頬杖をつき、平沢だけを見つめた。呼び出されたのは木暮のほうだ、自ら口を開く必要もないということか。  一方で平沢はと言えば、嬉しそうに目を潤ませながら木暮を見たり、見ていられずに目を逸らしたりと、こちらが照れるほどに感情がダダ漏れだ。
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