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でも、それでも岡田は言いたかった。今日初めて、延べ一時間にも満たない時間の木暮を見ただけながら、彼が何か大切なものを自ら手放しながら生き急いでいるだけのように見えて仕方がなかった。
「岡田さん、ってさ。下の名前、なんていうの」
唐突に木暮が訊いた。その目は案の定全く感動などしてはいなかったが、かといってバカにしてもいないようだった。不細工なゆるキャラを前にしたような、温度の低い興味を示していた。
「……隆幸」
意図もわからず、とりあえず答える。
「ふうん。じゃ、またね、隆ちゃん」
木暮は今度こそ、すたすたと部屋から出て行った。
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