出会い

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出会い

 近頃、平沢がおかしい。  何かと手回しよく仕事の出来る男だったのに、日に日にミスが増えている。口数が減り、周囲に目を向けない。  異変に気付いたのは八月の盆休み明けだったので、夏バテか、珍しくも女関係のトラブルでもあるのだろうかと思っていた。  地元が同じで、高校時代には同じアメフト部で汗した仲間だ。大学では離れてしまったと思ったのも束の間、東京で偶然同じ出版社に同期として入りはや八年。平沢とは他の同僚には言えない愚痴や女のことまでも話せる仲だ。  ただ、女に関してはいつも俺ばかりで、平沢は口を割らない。経験も少なそうだし、もしそれ系で悩んでいるなら慎重に聞きだしてやらねばなるまい、と思っていた。  しかし九月に入ったこの頃では、もはや様子は病的だ。頬がこけ、隈にふちどられた目が大きく窪む。身体も痩せて二回りほど小さくなってしまった。女レベルの話ではなく、命に関わるような病に侵されているのかもしれない。ますます声が掛けづらい。  つい当たり障りのない会話ばかりをしていた矢先に、平沢のことで、と上司の藤本さんに呼び出された。
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