ファミレス

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ファミレス

 自宅近くの駅前のエムバーガー。  土曜の午後、広々とした二階席は果てしなくかまびすしい。  泣き叫ぶ子供となだめる親、バカな中学生の雄たけび、可愛らしくも内容はエグいJKたちの囁き。あらゆるコミュニケーション騒音のカオスだ。  そのカオスの中に時折、太陽の黒点のように静かに独り身が座っている。……例えば今の俺のように。  奥まった場所の二人掛けの席でひとり、岡田はゆったりとアイスコーヒーを吸った。すぐ横ではJK四人がシェイクと教師と男子の品評を同時進行で精密にこなしている。毒にも薬にもならない話は異国のラジオのように心地よい。  バーガーを思い切りほおばって満足しながら、この平和な時間が午後じゅう続くことを願う。……あいつ、来なけりゃいいのに。  三月の繁忙期だ。金曜には思い切り残業をし、土曜出社の心配がなくなったところで爆睡する。カーテンの向こうに健全すぎる陽射しを感じて目覚めた時には、もう十時過ぎだった。嫌な予感がする携帯のメールマークは無視して軽く茶漬けを食べる。食べ終えて仕方なく確認すると、木暮からだった。あれからまた三か月だ。
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